女子サッカーは何を育てるか「さよなら私のクラマー・第1巻」




実写劇場版四月は君の嘘は9/10からです。今から楽しみで仕方がありません。設定も原作から変更し(中学生→高校生)、作品を彩るライバルたちもカットらしい、ということなので多少は心配しています。しかし、同じく講談社ちはやふるの映画が面白く、主人公を演じた広瀬すずさんが四月は〜でも主演をやるわけです。このあたり結構期待しています。
さて、原作の新川直司先生は四月は〜で有名になったわけですが、他にも色々と作品を出しています。例えば、(今は無き)マガジンイーノで連載していたさよならフットボール。今では人気となった女子サッカーを、なでしこ旋風の前に漫画にしていました。というか、新川先生はサッカーが好きすぎるよねw


ノンちゃんのフットボールには夢がある

主人公の恩田希は男子に交じってサッカーをする少女。(作中のルール上)女子が中学の男子サッカー公式戦には出られないため、試合に出たい出たいと叫び続ける作品です。ここで重要なのは、希が女子サッカーに交ざらない理由が“男子に負けないテクニックがある”ということ。練習とはいえ、男子と一緒にサッカーをしても負けていません。
ただし、華麗なフットボールを標榜する希に対し、年齢を重ねていくごとに体格や身体能力の差が顕著になっていきます。希が寄生している男子サッカー部の鮫島監督の、希に怪我をさせられない、男子サッカーの中では危険だろうという配慮もあり中学3年間で公式戦に出ることは叶わない・・・・はずだったんですけどね。
タイトルのさよならフットボールという言葉が印象的な作品です。希がやりたいフットボールを見つけることはできるのか。サッカーという土俵の中で、希が男子たちに負けない何かを見出せるのか。たった一人の女子サッカー選手が魅せる物語となります。全2巻の中に、希をはじめ、幼馴染の面々の物語も織り交ぜながらサッカー物語が描かれています。とても読みやすいです。オススメです。






そして、新しく月刊少年マガジンで始まったのがさよなら私のクラマー




さよならフットボールマガジンイーノ、2009-2010連載
四月は君の嘘月マガ、2011-2015連載
さよなら私のクラマー月マガ、2016-連載




四月は〜で“さよなら”を存分に味わったはずなのに、またしても“さよなら”をやるという・・・・。四月は〜の前にやっていたさよならフットボールに似たタイトルでやるという・・・・。さらに、今回も女子サッカーがテーマなわけですよ。



日本女子サッカーが終わってしまう

しかも、なかなか過激な言葉からお話が始まります。女子サッカーが終わってしまう?なーんて過激なことを言っていますが、↑の女性、おそらく作中での女子サッカー日本代表のレジェンドの言葉です。彼女が走るのを止めたとき、日本の女子サッカーが終わるかもしれないと言っています。現実世界の女子サッカーは・・・・とりあえず置いておきましょう。
さよなら私のクラマー」では、高校の女子サッカーを舞台にした物語が描かれます。第1話では、二人の中学生の少女が高校サッカーを続けるための学校選びをしていたり。


一人になんてさせないから

中学の全国大会で3位の原動力となったボランチ曽志崎緑。そして、その緑に敗れた周防すみれ。すみれは足が速く才能もあるものの・・・・チームに恵まれない孤高の中学時代を過ごしました。その才能に惚れ、一緒に高校サッカーをしようと誘ったのが緑。まぁ、緑が望んだ高校には行けませんでしたけどw


一人ぼっちの先輩

ちなみに高校を決めたのは、すみれ。理由はたまたま見た試合で、一人ぼっちの先輩・田勢恵梨子を見たから。グータラな監督に愛想をつかしたチームメイトが去り、田勢先輩は涙ながらに一人で練習していました。そんな状況に共感してしまったすみれが田勢先輩のいる高校を選んでしまいます。そして、それに付いていくことになった緑。
ただ、それだけすみれの才能に惚れこんでいた・・・ということなんですけどね。




全国レベルのボランチと一人ぼっちのスピードスター。そして、一人ぼっちの先輩。




そんな女子たちのサッカー物語が始まる―。












なぜかいるノンちゃん

あれー!???????なんでいるの?????






みんなでやった方が楽しい

どうやら、すみれと同じ高校に入ったようです・・・・。つまり、主人公は恩田希








というか、表紙からすでにいますね・・・・。





これ、雑誌での第1話のときから騙されていたんですけど、同じ“さよなら〜”というタイトルであることは知りつつ、まさか繋がっているとは思っていませんでした。むしろ、新川先生(月マガ編集部?)もそれを狙っていたかのように、新キャラのみの物語と思わせにきていたフシがあります。主人公はすみれのような告知、新連載のときの月マガ表紙もすみれ。しかし、出し惜しみもせず第1話には希がいました。実のところ、読者的には、「さよならフットボール」を知っている読者にとっては衝撃的な出来事でした。



合わせて読むといいよね

改めて1巻を読み終えると、「さよなら私のクラマー」の主人公って希じゃないか・・・・となります、なるはずです。なんせ表紙にもなってますしねwwww
個人的には「さよならフットボール」→「さよなら私のクラマー」の順で読んだ方がよいかと思います。もちろん面倒だって人は「さよなら私のクラマー」だけでも良いかと思います。ただ、さよならフットボール時代の登場人物も出てきますし、新川作品の特徴でもある“読めば読むほど重厚になる物語”を楽しむことができます。今回のさよならシリーズもそうですが、例えば「四月は君の嘘」も、小説版や新しく刊行されたcodaを一緒に読むと物語が濃厚になっていきます。こと新川作品に関しては、読めるなら読んでおいた方がいいと思います。




鮫島監督の後押し

ふと気になるのは、さよならフットボール時代に男子サッカーにこだわっていた希がどうして?という部分。1巻ではそのあたりが描かれますが、決して男子サッカーから逃げたわけではないこと、希が女子サッカーを楽しめていること、鮫島監督が女子サッカーの新しい時代を作ってこいと背中を押しています。
さよならフットボール時代、鮫島監督は本当に悩んでいたように思います。希は本当に才能にあふれています。もちろん男子に負けないテクニックを持つという長所はありつつも、現代の男子サッカーの持つパワーやスピードにはどうやっても希が追いつかないわけです。だからこそ、希の才能を消さないためにも女子サッカーを勧めることになります。チームには面白い一人ぼっちたちがいたり、1巻で試合する相手の強さに感嘆したりと、希が望んだものが得られているようには思います。



さてさて、いくつか既に気になることもありますが、例えば主人公は希でいいのか?という点。1巻の表紙になっているのだから!ということを考えると、やはり主人公と言ってもいいんでしょうかね。そうなると、完全にさよならシリーズは、恩田希のための物語となりますね。
ただ、周防すみれも十分に主人公をやっていると思いました。もう一人の自分を見つけたと希のことを評しており、主人公が二人いると考えてもよいのかもしれません。一人ぼっちが一人ぼっちを見つけたら、それはもう一人ではないのだなと思ったりもするわけで。そう考えると、同じ月刊少年マガジンで連載している「ぼっちアルバム」にも見習ってほしいなと思う部分もあるわけでw←宣伝



ぼっちアルバム

主人公が二人いる女子サッカー物語。一人は男子サッカーに交じって一人ぼっちだった少女。もう一人は、女子サッカーに交ざりながらも、才能が突出していたため一人ぼっちだった少女。
そこに、数多の誘いを断り一人ぼっちとなりながらも、自分が信じた才能についていった少女がいます。チームに人がいなくなり、一人ぼっちの存在となってもチームを何とかしようとした少女もいます。他にも我の強そうな女の子たちがおり、楽しい物語になっていくことに期待が持てます。






クラマーとは

そして、タイトルの「私のクラマー」という言葉が気になります。クラマーとは、日本のサッカー界の父と呼ばれるデットマール・クラマーを指していると思います。この時点で“監督”が重要な要素になるような気がしています。1巻では既に監督が4人登場しています。一人は希を女子サッカーに誘った鮫島監督。もう一人は、女子サッカーに未来はあるのか?と投げやり気味のグータラ監督の深津監督。さらに、日本の女子サッカーを牽引し続け、引退後に監督となった能見監督。最後に1巻の敵チーム(全国最強)の監督であり、サッカーという競技を理解し体現している鷲巣監督。
それぞれが個性を持ち、選手に影響を与える・・・・はず。鮫島監督の良さは希を引き立てた時点で分かりますし、本当は個人的にも語りたい鷲巣監督についてなどなどもありますが、やはり深津監督と能見監督は超重要なキャラとなりそうです。二人とも希たちのチームの監督ですが、そもそもチームをバラバラにしたのは深津監督です。彼はおそらく女子サッカーに対して、もう夢を見れていない気がします。ただし、どこか有能そうな雰囲気も出ています。
一方、能見監督は日本女子サッカー界の宝として現役を全うし、“そこ”から先を見据えて動いていると思われます。ちなみに、↑で「女子サッカーが終わってしまう」と言ったのは、おそらく現役時代の能見監督だと思われます(明言はされていません)。女子サッカーの基盤がもろく、不安定なままのスポーツであることを一番理解している気がします。そんな中、自分の教え子をどうするのか・・・・。とても気になります。




一体、「私のクラマー」は誰を指しているのでしょうね。










四月は〜が静の物語なら、さよなら〜は動な物語ですね。四月とはまた違った感動がやってくると思います。サッカーとしての面白さはもちろんですが、女子サッカーとしての面白さをどう描くのかが気になります。個人的には、女子サッカーはいいFWといいGKさえいれば何とかなるんじゃ?と思っていますが・・・・。というか、今の希のチームにはGKが足りないと思います。新キャラで出てくると面白いというか、ある程度の強豪とも戦えるとは思いますけどね。あとは、FWがちょっと残念なのが・・・・。
それと、ほんのちょっと期待しているのは、四月は君の嘘とまで関わってきたりしないかな?というところ。公生はいないでしょうけど、例えば渡くらいなら・・・・とか思ってみたり。意外となくはないのでは?なーんて思いますが。今後も楽しみです。