マコトの王者が2倍面白い

続々とゲッサン作品がコミック化している中で一際目立つ作品があります。同じタイトルで似たような絵柄なのに何かが違う・・・。それがゲッサンで絶賛連載中のマコトの王者です。この作品は二人の主人公が各々の視点で物語を進めており、過ごす環境は違うものの同じ時間をすごしています。つまり、同じ物語で2冊の漫画が描かれているわけです。




左:大地真(だいちまこと)/右:天堂誠(てんどうまこと)

右の天堂は10年間無敗というボクシングのウェルター級最強王者。一方の大地は若さを売りにして頭角を現してきた若手ボクサー。二人のタイトルマッチから物語が始るわけですが、天堂の身体が実はボロボロだったというハンデはあったものの、大方の予想を裏切って互角の戦いを演じます。お互いにボロボロになりながら迎えた9Rに終焉を迎えます。しかし、二人が同時に倒れ、一人が立ち上がった時に事件は起きます。




立ち上がったのは大地真!!!無敵王者を破り、新しいチャンピオンの誕生だ!!!・・・・ただ、その中身は天堂誠。




そして倒れているのは天堂誠。・・・・ただ、その中身は大地真。




なんと試合の最後に身体が入れ替わってしまいます。傍から見れば挑戦者だった大地が勝ったことになってますが、戦った両者からしてみれば混乱以外の何者でもありません。天堂からすれば、立ったはずなのに倒れている自分がいるわけで。大地にしても自分に見下ろされているわけです。



マコトの王者」という作品はここから始まり、お互いに全く異なる境遇を、全く異なる性格で突き進んでいく物語です。




マコトの王者(青)  1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)

マコトの王者(青) 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)

青版は元・天堂誠のお話です。天堂は元々有力政治家の息子でしたが、ボクシングのために家を出ます。ただ、家を出ても最強のチャンピオンとして君臨し続けたわけですから、人生のほとんどがお金持ちだったと言っても過言はありません。住んでいた家も高級マンション。乗っていた車もン千万円。それが、超貧乏な大地真として生活するわけです。


その大地側は本当に貧乏で、両親がいない中、妹を3人も養っています。それに加えて両親が残した借金の額が3億円!!!大地真を支援してくれる下町工場の人たちと一緒に頑張って暮らしています。


身体が入れ替わったということは、家族を持たなかった天堂にいきなり家族ができるわけです。自分の道を突き進んできた天堂。しかし、大地真となって生きていくからには大地が守ってきたものも守らなければなりません。しかしそんな中で、自分以外と歩む大切さ、暖かさを学んでいきます。上だけを見続けていたつもりが足元に「家族」という手を取り合うものがあったことに気付きます。





そんな大地家を守るため王者として君臨し続けることを誓う元・天堂。ケガがあったとはいえ元々のテクニックは超一流。そんな天堂が元気いっぱいの大地の身体を持つわけで。これぞ正に最強と言わんばかりに防衛戦でも勝利します。ただ、前の身体の時に唯一と言っていいほどの理解者であった町村トレーナーから掴みかかられる一幕があったり・・・。





町村トレーナーがどれだけ天堂を大切にしていたかが分かりますが、そんな町村トレーナーを見て複雑な心境の天堂・・・。自分の近くにも大切な人間がいたんだなとしみじみしていしまいます。


青版マコトの王者は、ギブアンドテイクな物語です。本当の家族ではないものの自分に力を与えてくれる人たち、そんな家族を自分の持てる力や経験で守るという最も単純で純粋なお話です。自分に欠けていた暖かさを見つけながら天堂はマコトの王者に向かっていきます。





マコトの王者(赤)  1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)

マコトの王者(赤) 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)

自分が勝ったはず・・・!?それなのに気付いたら、ボクシング以外には何も無い天堂誠の部屋にいた大地真。試合が終わってから、自分の、天堂の身体がボロボロなことに気付きます。自分が戦っていた相手は、こんな身体で互角だった・・・?と驚きつつ、改めて天堂誠のボクシングに対する情熱やブレない心を知っていきます。そんな相手だからこそ、もう一度戦って勝ちたい!!その気持ち一つで自身の境遇を受け入れ、改めて自分の身体となった天堂に勝負を申し込みます。貧乏な境遇を恨み、天堂を妬む気持ちで取り組んだボクシングに再度挑戦するため、天堂となった自分が天堂に挑む決意をします。




これまで天堂が怠ってきた周りを見る、足元を見つめることを標準装備で持っている大地ですが、実は天堂の周りにもそれが溢れていたわけで。叩けば響く関係も、これまで叩こうともしなかった天堂に成り代わりどんどん突き進む大地。そんな真っ直ぐな大地(見た目は天堂)に戸惑いつつ雪解けしていく周囲。


また、大地は絶対に天堂じゃできないこともやってのけます。それは縁を切っていた天堂家との修復。ボクシングを理解してくれない天堂家に対し、天堂がどれだけボクシングと面向かって戦っていたかを知ってもらいたい一心で天堂家に溶け込む大地。特に天堂のために土下座をした場面は大地だからこそな場面でした。





青版でのヒロインは大地家の妹たちになりますが、赤版では激烈可愛い彼女が登場。



許婚の吉永まさみ


試合後の天堂のために口に染みない料理を作ってあげたり、試合に負けた悲しみを癒してあげようと・・・なことをするため服を脱ぎだしたりします。さすがにムフフなことはお断りしましたが、料理の方は大地が大絶賛するほどの腕前でした。なお、料理をちょっと食べて褒めただけなのに、「初めて認めてくれた」と泣き出すくらいに喜ぶ吉永まさみ。天堂よ、こんな可愛い彼女に何もして無かったんかい・・・・。まぁ、この吉永まさみという女性の性格が若干キモイ(天堂の凛々しい姿を見て悦る等)んですけどね。でも、俺はこんな女性も嫌いじゃない(←聞いてない


ただ、大地も色々と苦労しそうな予感。というのは、自分の身体の頃は勢いで戦うタイプで、とても天堂のように他人の身体で戦えるほど器用じゃありません。しかも、体中がボロボロという大ハンデ。さらに負けてないのに負けてしまったという事実。這い上がるには相当ストイックにボクシングに打ち込まねばなりません。ただ、真に優しい強さを知っている大地ですから真っ直ぐ真っ直ぐ突き進んでいくんだろうと思えてきます。そこでもう一度、ボクシングはお金儲けの道具ではないこと、リングにあるものを見つめなおしマコトの王者になってほしいと思います。




  • 全体を通して

お互いがお互いに足りなかったもの。天堂で言えばボクシング戦う理由。大地で言えばボクシング戦う理由。言葉だけがちょっと違うようで実は中身が全然違うわけです。ただ、それぞれが持っている最大の持ち味こそがそれぞれに足りなかった部分であり、確実に周囲に対してよい影響を与えていきます。


マコトの王者にあるような入れ替わり系というのは作品としてもよくあるんですが、入れ替わってからほとんどお互いが絡まない作品はなかなかないと思います。それこそ、全く違うタ2つの作品を読んでいるようなものです。ただ、片方だけ読めばいいかといえばそうではなく、2つあってこそお互いの境遇の違い、何が起きているのかを理解できるわけで。2冊あって1つの作品だと気付けたら、マコトの王者は2倍面白いと思えるはず。どちらが先にマコトの王者になれるのか、さらには元の身体にに戻れるのか。色々と楽しみな作品です。