「明日のない空」を読みながら塀内先生の凄さを考える

塀内夏子先生の作品って好きなんですよね。過去の作品を振り返ると、リアルなサッカー漫画として有名なJドリームオフサイドをはじめ、イカロスの山、最近だと中澤佑二物語なんかがあります。他にも不運な雑誌のアッパーズに連載されていた史上最低のレガッタ、俺が塀内作品で一番好きなROADなんかもあります。


で、最近発売されたのが「明日のない空」です。帯文に宮崎大輔選手がコメントを寄せていたことからも分かるんですが、ハンドボール漫画です。昼は働き夜は定時制高校に通う主人公・才谷駿と、同じ高校に通う古賀毅が、辛いことも楽しいこともたくさん経験しながらハンドボールに打ち込む漫画です。
塀内先生の凄さの一つに、その題材の描写がしっかりと描かれている点があります。本格的にやっている人間から見るとどうかは分かりませんが、素人目で見ると本当にそのスポーツやシーンが見えてきます。俺もサッカーをやっていましたが、サッカー漫画では実にリアルだなと感心するほどでした。動きから汗まで実に魅せてくれます。この明日のない空から感じる躍動感や一瞬のプレー中に見せる目線なんかはさすがだなぁと思わされます。



駿(左)と毅(右)


もう一つ絵的な面で塀内先生の特徴を挙げるとしたら、喜怒哀楽の表現の豊かさだと思います。毅が喜ぶ姿は本当に満面の笑みだし、駿が身内の問題で悲しんだり茫然自失としてる表情なんかはとても泣かせます。また、辛くてもハンドボールをやっている時は楽しめるよ!というのも伝わってきます。特にこの「楽しんでいる」表現が好きです。どんなスポーツ漫画でもそうなんですが、そのスポーツが楽しいんだよ!!と伝えられたら100点満点です。皆もやってみようよというメッセージ性が強ければ強いほど好きですね〜。




ハンドボールは宮崎選手が出てきた時からしか知らないんですが、結構激しい当たりもあるし、何より空中を飛ぶスポーツなんですよね。相手を上回るジャンプだったり、もぐりこむ様に飛んだりするわけですが、その中には様々な戦略があったりするわけで。まぁ、上の絵にもありましたが毅のガタイが大きいこともあり、かなりゴリ押し試合が多かったりするんですけどね。
駿たちはかなりいいチームらしいです。ただ、定時制ということもあり、普通高校と大会で争うことはできません。とはいえ、練習試合で普通高校のトップチームと互角以上に戦うことを考えると実力はかなりのものです。多くの試合を通して毅の存在も知られるようになり、今後の展開がかなり楽しみになってきました。



環境が整わなかったり、人数もたくさんいない。普通の高校から見ると劣悪と言わざるを得ない状況だったりもします。それでもハンドがあればオールOKだという駿たちが俺は好きです。



最初に塀内先生の絵について色々書きましたが、本当の凄さって違うところにあると思うんですよね。塀内先生の本当に凄いところ。それは「辛いって何だ?」と問いかけてくることです。何でも頑張ろうとすれば辛い、苦しいという言葉がついてきます。決して楽しいということばかりではありません。ただ、そんな辛いことを抜けた時に何が待っているか・・・。
塀内先生はその一瞬を語りかけるように、諭すように漫画を描きます。どの作品でもいいです。全ての作品にそれらの塀内先生からの言葉が詰まっています。そして、俺はそんな塀内作品を読んで頑張ろうという気持ちをもらいます。ちなみにオススメはROADね。


経済的な状況だったり、不幸と言わざるを得ない駿の境遇はありますが、それをどう乗り越えていくのか。ハンドボールという競技を通してどうやって立ち上がっていくのかとても楽しみです。



塀内先生は何かを伝えられる漫画家さんだと信じています。俺としては短期連載レベルでたくさん作品を描いてもらいたいです。まぁ、まずはハンドボールを楽しみますかね。

明日のない空 (ビッグコミックス)

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