期待の新人・太田モアレの「鉄風」・・・刮目して見ろ!!

現在、講談社good!アフタヌーンで連載中の「鉄風」が面白いです。正確に言えば面白くなっていきそうだと期待しまくりです。作者は太田モアレ先生。ご存知四季賞出身の先生です。知らない方のために以下簡単な紹介・・・というか好きになったキッカケ。


世に出た最初の作品が「囚われクローン」です。死刑制度がなくなった世の中で、長期化した懲役(100年以上とか)を全うするためにクローンを作成し罪を償わせることになった世界のお話。そこまで長期化することはありえないし、クローンを作ってまで服役させる時代なんて来ないだろうと分かってはいるのですが、もしかしたら・・と思わせるほどに読ませてくれた作品です。ちなみに2007年春の四季賞を受賞しました。



「囚われクローン」

次に描かれた作品は「魔女が飛んだり飛ばなかったり」です。前作でおっ!?と思わされたのですが、この魔女が〜を読んでからはもう虜です。世の中に13人しかいない魔女が世界を救うお話です・・・が、その内の1人がなんでもない日常をすごしている情景を描いています。今では手に入らないため、世に出る可能性は低いのが残念でなりません。いつかどこかの単行本に収録されるといいですね。ちなみに2007年秋の四季賞を受賞しています。



「魔女が飛んだり飛ばなかったり」

それ以外では2008年に一度「都市伝説だよ都市子さん」という読み切りを描いたのみです。実は、グフタで「鉄風」の連載を持つまでに、本誌でたった1度のみの読みきりしかだ出していません。魔女が〜の時点ですぐにでも連載を持てたそうなのですが、どうやら絵の勉強のためにアシをしたいと自ら志願して今まで力を蓄えていたようです。実際に囚われクローンの時と比べても、都市子さんや鉄風での絵は数段レベルアップしていると言っても過言ではありません。


太田先生の話は一貫して本質の部分をぼかそうとします。ちょっとしたギャグ等を入れてぼかします。俺が一番好きなぼかしは「ぬぬぬぬ」というモアレ擬音を使うシーンです。太田モアレ先生の作品で何故かよく見ます。作品を通していい味を引き出しています。



モアレ擬音(魔女が飛んだり飛ばなかったりより)

はっきり言ってしまえばかなりぬるいのですが、そこからキャラが持つ「芯」の部分をグッと見せる時、本当の太田モアレの作品が見えます。それはまるで台風の目の中の境目にいるような気分です。見た目は晴れ晴れとしているのに、実は暴風の中にいるという危なっかしさ。一旦そこに踏み入れた時、思わず太田モアレという世界に巻き込まれていきます。
太田モアレ作品最大の特徴はやはり目でしょうか。何を見ているのか分からない時があるかと思えば、急に魂がこもるんですね。その瞬間がたまらなくイイ。



そんなわけで「鉄風」です。この作品は何でも出来てしまう天才主人公の石堂夏央が、馬渡ゆず子という総合格闘技部をやろうとしている少女に出会うところから始まります。



上:ゆず子/下:ナツオ

ナツオは天才であるがゆえに退屈を感じながら日常を過ごしていました。以前は空手をやっていたようですが、今ではバレーをやりながら適当に生活しています。しかし、強豪であるはずのバレーチームにおいてでも先輩を見下すような仕草がちらほら・・・。
ナツオは人をかなり見下した性格をした主人公です。実はこの漫画は格闘技ものなのですが、バトルものにおいて熱血主人公をあえて立てず、ダーク系を主人公としています。むしろゆず子の方が熱血だったりします。日常に満足していないダークな人間が充実した人間に出会った時にすること・・・。それはその充実した世界を潰すこと。そんな二人が出会い、ナツオは遊び半分でゆず子に戦いを挑みます。




結果は紙一重でナツオの負け・・・。天才ミーツ天才。しかし、片方の性格がひねくれているせいか、ただの一方的な妬みに変化します。むしろそれが定めなのかもしれませんが・・。あ、もちろんナツオは妬みという感情だとは一切違うと断言していますが。というわけで、熱血主人公が悪役を倒すことはよくありますが、鉄風はその逆です。強い熱血主人公を倒すまでのダーク系を描いているわけで。しかも、その努力が半端ないです。


努力その1:身体の鈍りを戻すために空手部に殴りこみ→黒帯に圧勝も物足りない
努力その2:現状での敵との実力差を測るためにナツオのところへ再度殴りこみ→完敗も・・・






「潰しがいがある・・・その確認に来たのよ」


お前・・・本気だな・・・っ!!通常は何でもない風景ですが、ナツオの目が本気になった時・・・、全てが動きます。そして、それに呼応するかのように俺の心も揺り動かされます。全体的にナツオの目のギラギラ感が堪りません。どんなことであれ本気な人って素敵です。




太田モアレ作品が大好きです。色んなジャンルを描いてきましたが、一貫してモアレイズムを守りながら、全ての作品が面白いです。この新人は侮れません。鉄風が飛躍のきっかけになり、アフタヌーンという雑誌の看板を背負えるだけの漫画家さんになってもらいたいと切に願います。