日向武史の青春「あひるの空 BEST SELECTION+」

週刊少年マガジンで連載中の「あひるの空」。正直言いまして、この作品をそれほど大絶賛したくないんですよ(←ぶっちゃけすぎ)。というのも、スポーツ漫画として逸脱しすぎだろうというのが真っ先に来てしまうから。負けすぎ。問題起こしすぎ。だけど、不思議と読んでしまう作品。それが俺にとってのあひるの空
ことある毎に負けていくチーム。火事が起きる。ヒロインが知らないところで汚されそうになる。重要だと思ってたキャラが部活を辞める。そんな作品なんだよなぁと改めて思うんですが、かの名作「スラムダンク」を抜く巻数が出ている作品でもあります。そういう意味ではスラムダンクのその先を見せてくれる作品なのかもしれないと淡い期待を持っていたり。いや、期待してますけどいけませんか??毎週楽しんで読ませてもらっています。

・・・あ、そうか。結局、俺はこの作品が好きなのか。



あひるの空 BEST SELECTION+」

いや、実際のところ、あひるの空については色々と思うところがあるわけでして。で、その「あひるの空」でベストセレクションを出すというじゃないですか。過去の作品を振り返っても、どこにベストをセレクションできる話があっただろうか?とちょっと気になっていました。
というか、ベストセレクションって作者から出すものでしたっけ??有名作品を雑誌サイズでまとめて出しているのはたまに見かけますが、今回の本はあくまでも作者が単行本のとある話を引っ張ってきた本なわけです。しかも真っ白な表紙。何か自分の作品に自信満々だなぁと思わされます。だって、ベストセレクションに選ばれているお話って、自分の本棚に収まってますから。買う必要ないんじゃあ・・・。


かなり気になるのは「あひるの空 BEST SELECTION+」の”+”という点でしょうか。ネタばらしすると、実はベストセレクション以外のお話が載っていたんですよ。



あの日からのお話

ベストセレクション以外に2話収録されていますが、1つはとある学校のとある生徒の物語。もう1つはいつものメンバーがモヤモヤを発散するために遊びに興じるお話。この内、前者の物語がとてもとても心に残るお話で・・・。買ってみた。読んだ。そして泣いた。そんな1話が収録されている単行本でした。
あの日、大地震から始まる環境の変化。その中で諦めていたバスケット。それでも、動き出そうとした少年のお話が描かれます。地震の日に土の上をバッシュで歩いたことに感じた罪悪感。そして、やっぱりバスケをやろうと一念発起して、父親に新しいバッシュ頼むというところまでが小さくて大きなお話になっています。

・・・これが泣けるんですよ。

新しいバッシュを買ってもらうにしても、地震以降本当に苦労している家族に頼みにいくのがほんともう・・・。


素直に多くの人に読んでほしいなと思えるお話でした。なお、作者の日向先生に届いた手紙を元に描いているそうです。あの忌々しい地震に対しての悲しい記憶、そこから這い上がる少年の気持ちの変化、そして動いていく時間。止まりかけたバスケ少年の青春が描かれた良作ではないかと思います。




で、ベストセレクションについては、日向先生が厳選しているなぁという印象が強いですね。主人公じゃないその他のキャラたちの青春が描かれ、葛藤だったり、楽しいことだったり、いや、いつも通りのあひるの空なんですけど、ちょっと新鮮な見え方がしました。




改めて感じるのは、作者の日向先生はまだ青春真っ盛りだなということ。悩むことも青春だと思えば、あひるの空の中で悩みに悩んでいる日向先生の”それ”は青春ではないかと思うわけです。
ベストセレクションのお話はキャラ個人個人の青春の1つでした。十人十色の人生があり、それを淡々と、いや悩みながら描く日向先生がいます。もしかすると日向先生のやりたかった青春なのか。はたまた今なお続く日向先生の青春の1ページなのか。どうしてこの話を選んだのかまで考えると、面白い本だったなぁと思います。

”勝ち続ける”を放棄し、読者も作者も迷い続けている感のある作品ですけど、それも青春っぽくていいなぁと思えてきます。バスケ漫画というより、青春漫画と思えばいいのかも。改めてあひるの空を応援したくさせられた一冊でしたよ。印税は震災に寄付するそうなので、気になる点があれば手にとって読んでみてほしいものです。