漫画の魂を受け継ぐ漫画「あしたのジョーに憧れて・第1巻」
職人の魂
今、伝説に触れる―。
漫画の神様といえば手塚先生・・・・だと言われたり言われなかったりでしょうか。しかし、講談社の神様といえば“ちばてつや先生”だと断言してもいいと思います。それだけ講談社の作家さんに影響を与え、今の今までずっと受け継がれてきたものがあります。影響を受けた講談社作家がさらに次の世代へと受け継いでいるものがあります。その功績から、ヤンマガやモーニングでは新人賞として「ちばてつや賞」が設けられているのは御存知のとおり。
そんな“ちばてつや先生の漫画家としての魂”を後世に伝えるため、描かれた漫画があります。その名は「あしたのジョーに憧れて」。現在、マガジンRにて連載中の作品です。
ちばプロの絵とは
ちば先生の作品、特に背景のお話ですが、いわゆる一般的な立体感のある背景とは少し違うらしいです。それが温かみのある絵に繋がる。
そんな話をするとある漫画家さん。このちば先生に詳しい漫画家さんが「あしたのジョーに憧れて」の主人公となります。名前は「川三番地」。知っている人は知っている漫画家さんでありますが、代表作を挙げると「風光る」や「Dreams」が有名でしょうか。ぶっちゃけると大御所です。そんな大御所である川三番地先生が熱く語るちば先生という存在―。
もっと知りたいよ
川三番地先生が熱く語るからこそもっと知りたくなる。その熱い語りを漫画にしたら?川三番地先生が見てきたちばてつや先生という存在を漫画にしてみたら?ちばてつや先生が描いてきたものを、ちばてつや先生が伝えてきたものを漫画にしてみたら?
意義のある漫画となることがわかっているからこそ、やってみる必要がある。これはそういう作品としてできあがっています。
田中少年とちば先生
物語が始まると、川三番地という存在は田中少年(本名だそうです)へと変わります。田中くんはちばてつや先生に憧れてアシスタントとして働くことになりますが、漫画の現場というものを全く知りませんでした。特に多数の連載を持つちばてつや先生であるため、ちばプロはまさに共同作業となっています。
絵を描くことは少し学んでやったきた田中くんでしたが、実力不足は否めません。アシスタントの先輩にアドバイスをもらったり、時にはちば先生から直接アドバイスをもらったりもします。この作品では、田中少年がちばプロで得たもの、見たもの、取り組んだものが描かれます。それがまぁ、面白い。
ちば先生の絵
以前、ニコ生でちば先生が質問に答えるという番組がありました。そこでは、ちば先生のお家の応接間が使われており、とても大きなジョーの顔が描かれています。田中くん(川三番地先生)曰く、新品のペンでは出ない味とのことです。いやしかし、このジョーの表情の緊迫感?凄み?に圧倒されますな。
ちば先生の作品を読んだことはありますが、そう考えると「絵」に注目したことがなかったなと気付かされました。例えば、あしたのジョーのストーリーが持つ重厚な雰囲気は、絵によってももたらされているのだろうなと思います。↑のコマのジョーをまじまじと見ただけでもそれが伝わります。作中では、ちば先生の絵のみならず、ちば先生を支えたアシスタントの皆さんの技術が紹介されています。個人的には血しぶきの技術は、ちょっと感動してしまいました。やろうと思えば何でも描けてしまうものなんですね・・・・。
さすがに絵描きではないため、その全てが新鮮な情報でしたが、もしかすると今の絵描きさんたちにとっては当然のことなのかも?いや、今のデジタルが増えた状況を踏まえると、失われた技術なんてのもあるのかもしれません。そういう意味では漫画家さんにも読んでもらって感想を聞きたい作品だったなぁと思いました。
ちなみに、ちばてつや先生の仕事場では、アシスタントさん以外に食事担当のお手伝いさんが5人はいたそうです。裏を返せばそれだけ大変な仕事場だとも言えるわけですが・・・・。
仕上げを任された田中少年
第1巻では、田中少年の入門、初期編、修羅場編、大宴会編なんてのもありますが、その全てに無駄なものがない作品となってます。漫画を作るために、漫画をもっと良くするために。それが作中の至る所にあるという作品なんですよ。ホント、すごい作品です。
個人的には修羅場でのお話がとても好きでした。ちば先生がどうして健康に気を使うのか、ちば先生のような超超大御所でも苦労する時がある、アシスタントの皆さんがちば先生を支えようとする姿が見られます。田中少年がインクをドバーッとやった場面なんてのもありますけどねww
それでも、田中くんが努力してきたところも描かれたりと、意外と(?)田中少年成長物語としても見逃せないのがミソでしょうか。
読者のために・・・・
そして、一番好きなのがここからのシーン。どうしても間に合わない見開きページに対し、ちば先生がとった方法とは―?
・・・・まぁ、せっかくのシーンなので是非是非読んでもらえればなと思います。ちばプロのチームワークが窺える場面でもあります。
この作品の一つのテーマとして、デジタル化された現代との差を描こうとしている部分があります。ただ、決してデジタルが悪いとか良いとかって話ではないです。デジタルが無い時代に圧倒的な画力を誇っていたアシスタント集団がいたという記録です。また、講談社の神様・ちばてつや先生がどんな気持ちで、どんな状況で漫画に取り組んでいたかを描いた記録でもあります。
漫画を読む際、どうしてもストーリーばかり追いかけてしまっていました。「絵」というもっとも重要な部分を忘れてはいけないという良い教材になったと思います。読みながら、すげーすげー!と言っていた自分がいます。漫画家さんがこれを読んでどう思うのだろうというのも気になりました。この漫画を参考に〜というわけではありませんが、先人たちがこうやって残そうとするものを受け継いでもらいたいなと思います。
まぁ、お前何様だよって話ですが。