好きなことを語り合える楽しさ「こたつやみかん・1巻」



さぁさぁ噺を聴いとくれ。

これは名作の予感がする
月刊アフタヌーンで連載している「こたつやみかん」。これがかーなーり・・・面白い!!作者の秋山はる先生は過去に「すずめすずなり」「オクターヴと連載してきましたが、これらとはまた一味違う作品を生み出しています。というか、内容がものすごく明るくて楽しい作品になってます。
テーマは“落語”。最近終わってしまいましたが週マガでは「ラクゴモン。」がありました。アニメ化までされたじょしらく。漫画賞で名前をよく見かける昭和元禄落語心中は旗振り役と言ってもいいでしょうか。もしかして落語がテーマの作品が流行ってる・・・?と錯覚するほどです。しかし、こちとら落語のらの字も知りませんでして。せいぜい山崎邦正月亭方正という話題程度です。それなのに、こたつやみかんを含めどの作品も読んでいて面白いのが不思議。また、それぞれの個性があって尚更面白いです。


・・・あれ、「じょしらく」は落語とはちょっと違うか?









クラスの中でも無口で内気な坂井日菜子。彼女にとって唯一の楽しみは大好きな落語を聴くこと。そんな彼女の前に転校生の有川真帆が現れます。実は彼女も落語が大好きで、石川から転校してきてからずっと寄席に入り浸っていた模様。ある日、寄席の帰りに真帆に声をかけられ、日菜子にとっても真帆にとっても今までとは違った落語ライフが始まります。
日菜子は何と言うか・・・本当にクラスに一人はいそうな地味っ子なんですよね。一方の真帆は、才色兼備とは彼女のことじゃないだろうか?と思うくらいに完璧。仮に俺が彼女たちの学校にいたとしたら、何故にこの二人が?と思うに違いありません。しかし、彼女らには共通項の“落語”があったわけです。これはまさにお互いにとって如魚得水。そんな二人は、落語を語り合うだけでは飽きたらず・・・・


落語研究同好会をやろう!!

・・・と、なります。
このあたりとても面白いな〜と思います。まず、日菜子が意外とノリ気なんですよね(最初は恥ずかしがってた)。そんな子には見えないのに・・・。裏を返せば、それほどまでに好きだったのに聴くだけだったわけで。ちょっとした出来事で彼女は“聴く”から“演る”側へと変身します。まぁ、あれですよ。野球好きのおっさんがあーだこーだ言ってるけど、いざ野球をやらせてみたらどうなんだ?って話ですよ(←多分違う)。やってみることで、彼女にとってまた違う落語の楽しさを得ていくわけです。ちょっと見方を変えると、同好会をやろうと決めたこの時、彼女は受信する側から発信する側へと移り変わります。自分たち読者と同じ目線であった彼女は、読者へ落語の楽しさを語る発信側となります。
やってみたら躓いた。やってみたら反応が悪かった。それも当然。何せ彼女は素人ですから。紆余曲折ありながらも、親友の真帆と一緒に落語って面白い、落語って楽しいを魅せてくれます。また、好きが“より好き”になっていくのが見ていて楽しいし嬉しいです。「こたつやみかん」はそんな作品―。






どうして九両三分二朱

さて、この作品を語ろうと思った時、どうしても避けては通れぬ輩がいます。それは、同好会唯一の男性キャラ・梶浦悠太。学校でも有名なイケメンです。しかし、いや当然のことながら・・・彼も落語ヲタ。彼の脳内では既に高座に上がっているそうな・・・。脳内での芸歴は相当らしく、高校を卒業後は某大学の落研に入るのが目標らしいです。真帆が残念な美人だとしたら、こっちは残念なイケメンですな。落語を好きなことが残念というわけではなく、何をさせても多分・・・痛い感じがするのが残念。
作中、梶浦が落語好きなのはとても伝わってきます。まぁ、話を聞いてると頭が痛くなるタイプですがw 頭のかたいガッチリ理論武装タイプと話している感じに似ているかもしれません。もちろん日菜子や真帆とぶつかり合いますが・・・どう見てもトムとジェリーなので、見ているだけで面白いです。あ、争いは同じレベルでしか(ry

1巻では彼女たちは3度、寄席をやっています。1度目は日菜子&真帆vs梶浦による同好会設立を目的とした寄席(梶浦が入らないと人数的に創設ができなかった)。2度目は蕎麦議論後の突発寄席(日菜子のみ)。そして、3度めが新入生歓迎を目的とした寄席(真帆のみ)。なお、この3人はそれぞれに名前を持ち合わせています。

坂井日菜子:炬燵家みかん
有川真帆:牡丹楼まほ吉
梶浦悠太:風来亭蔵之進

・・・おっ、おう。
最初は凝ってるな〜と思ったのですが、やはり寄席をする身としては名前を持つことは礼儀として必要なんでしょう。やっぱり高校生の部活・同好会でも当然のこと・・・なのかな?そのあたり疎すぎて分かりませんが・・・。描写はありませんが、真帆と梶浦はあっさり決まって日菜子は一晩二晩悩んだのでは?と思ってみたり。当然のことながらタイトルの「こたつやみかん」は彼女の炬燵家みかんから来ています。でもまぁ・・・、日菜子はコタツにみかんが似合う女の子ですよね。




  
意見のぶつかり合い・・・?

同好会を設立して自ら演ることが作品としてメインのように見えて、実は落語について語り合うのがメインの作品のようにも見えます。例えば、「時そば」につての日菜子と真帆のそれぞれの意見。噺の中でそばを食べる部分があるんですが、日菜子は“仕草は噺を際立たせる手段でしかない”と言い、真帆は“噺の中の演出があってこそ”という意見。どうやら傾倒する師匠にそれぞれ影響されている模様。なお、梶浦は・・・好きな師匠が演らないから興味薄でしたwww
これって“好きなもの”がある人だとよくある光景ですよね。いわゆるオタクトークというか・・・。自分も漫画が好きで、友人と話したりしますが・・・いつもこんな感じです。だからこそ分かる。好きなものに意見を言い合えるって・・・楽しいよね!!!!
あと、落語って何も知らない自分たちが思っている以上に奥が深そうです。落語家さんが変われば、聞こえてくる印象も違う。もちろん噺も数多くあれば、古い新しいだってある。あー確かにハマるとより深みに行きたくなるのがよく分かります。語る要素が多ければ多いほど面白いですもんね。そして、この作品では“演る”という要素がアクセント的に出てくるので、帯文に書いてあったとおり「落語を知らないならよりいっそう楽しめる」のが分かります。





落語の神に愛されてる・・・?

日菜子が落語の神様に愛されているかはさておき、漫画の神様に愛される作品だとは思います。落語ガチ層にとってどう見えるかは気になりますけどね。少なくとも、落語にそれほど明るくない人間にとっては、色んな噺が知れて楽しめますよ。
主人公たちにとって“好き”を語り合える場所ができた。未知なる世界へ飛び込んだ。より深くより深く。輝き始めた3人を青春物語として見る楽しさがある。好きの純度を高めていく3人を見ることが出来る。これってとても楽しいことですよ。どんな“好き”であったとしても、どうして好きになったのか、どれだけ自分が好きなのか。これを語り合うこと、それを見てとれることって一番楽しいことなんですよ。


落語が好きな人も知らなかった人も。漫画を楽しむs素養があれば、絶対に面白い作品だと思います。オススメ〜。