コドモの目線、オトナの目線「ひらけ駒!・8巻」



WE LOVE 将棋!!

モーニングで連載している「ひらけ駒」の8巻が出ました。あれ、そういえば・・・講談社で今やっている将棋漫画ってこれだけでした・・・っけ??違ったらすみません。これがあるだろ!というのがあれば、あとで教えて下さい。とはいえ、この作品については他の将棋漫画と違い、それほど盤上に着目していないのが特徴なので、異色将棋漫画としての地位はガッチリキープし続けるでしょう。某誌では乱闘OKな将棋漫画もあったりしますけどね・・・。



やめるという選択肢

主人公の菊池宝くん、そしてその母による物語。決して将棋漫画でよくある精神をすり減らすような物語ではありません。四段以上のプロ棋士のお話でも、プロを目指す奨励会のお話でもありません。小学生の宝は奨励会の一歩手前にしかいません。もっと言えば、“これから”の物語です。作中ではほとんど盤上の勝負が描かれませんけど、宝は試合に勝ったり負けたり。ちょっとずつちょっとずつ成長していきます。それが子供の特権でもありますから・・・。
将棋の世界って本当に厳しいところだと思うんです。プロになるだけで死に物狂いなのに、なったらなったで苦悩苦悩アンド苦悩な毎日。ましてやプロになれなかったら、長年の努力が水の泡になったりもします。そんな世界に入るためには・・・やはり子供の頃から頑張らなければありません。例え成功する可能性が見えないとしても・・・。
もちろんスポーツを頑張る少年時代だってあります。勉強を頑張るという学業のレールに乗ることだって出来ます。親からすれば、普通に大学まで行ってもらって公務員なり何なりになってもらいたいという気持ちもあるかもしれません。しかし、将棋を指すプロを目指すには、それ相応の覚悟がいるんです。将棋をやめるって選択肢も・・・決して間違いではないんですよ。





花田みずきの場合

宝という主人公は、天才というわけではありません。まだ目覚めていないという可能性もありますけどね。一方で天才少女として描かれる子もいたり。何度か登場していますが、8巻では女流1級相手に勝利するみずき。この子はほんまモンの天才です。将棋界にあって女性というのが勿体無いかもしれませんけどね。みずき父も勝ち続ける娘にそれほど興味はないご様子。このあたりは、ちょっと難しい問題がありますけどね。
みずきにとっては勝つことがモチベーションになっています。勝って勝って勝ちまくって、父親を振り向かせようとする。それがみずきのモチベーション。一方の宝は、まだどこか将棋の楽しさをモチベーションにしているような気がします。何はともあれ、楽しめるというのも大切な才能だと思います。朝起きて夜寝るまで。ずっと将棋を考えるというのも重要な成長の要素。




まだまだ遅くない

8巻において、一番の特徴は田島親子の存在かもしれませんね。特にお父さんがとてもいい!!息子の付き添いで全く興味の無かった将棋をやってみたところ、これがドハマりした・・・というお話。初めての相手が宝だったというのも大きかったかもしれません。負けると悔しくて続けてしまったりするんですよねww なお、宝とは8枚落ちで負けた模様・・・。
最初はただの付き添い。そこから、本気でアマ初段を目指しはじめます。



あの頃始めていれば―。



大人になると、どうしても昔を振り返ってしまうことが多くなります。ただ、昔の自分には戻れません。もっと言えば、未来の自分にとっては今の自分に戻ることができません。未来から見れば、何かに夢中になるのに遅いなんてことはないはず。もちろんプロスポーツなんかは無理かもしれません。しかし、田島父が夢中になったのは将棋。プロになることはないですが、夢中になって損はないものだと思います。昔のアニメの歌詞ですが、夢中になれるものがいつか君をスゲーやつにするんだ。まさにこれでしょうねぇ。



・・・というオトナの目線。






菊池母悩む

大人が将棋に夢中になるという目線もあれば、子供が夢中になっている最中を応援しようとする大人の目線もあります。宝はボケ〜っとしたところもありますが、決してバカな子ではありません。未来を見ようとすることができる少年です。そんな宝に対し、どう接することが一番良いのかを悩む菊池母。子供の成長を見守るだけというのが・・・実は一番難しい!!


奨励会試験は一回しか受けないから

繰り返しになってしまいますが、将棋道は棘道です。楽しいという気持ちだけでは乗り越えられないものがあります。しかし、そんな宝を母親として見つめることしかできません。将棋の先生として力になれるわけでもありません。

宝の力になりたいのに
なんにもできない・・・

見守るだけ。ただただ見守るだけ。これが意外と難しい。可愛い息子だからこそ、“何か”をしてあげたくなるわけです。・・・とはいえ、上手くやってると思いますけどね。宝が暗い時に元気付けてあげることができるお母さんですし、8巻ラストでも描かれている宝を朝起こすエピソードなんかはとても特徴的だったように思います。いいお母さんをやれてます。宝の夢を大切に育ててあげられていると思います。






巻末にて

自分の負けをさとって、涙をこぼしながら最後まで指していた君。
君のような子が描きたくて「ひらけ駒!」をはじめました。
この作品は面白い。それだけは分かっていたんです。ただ、何が面白いのかをうまく言葉に表せなかったんです。でも、巻末の南Q太先生のコメントを読んでいて、もとい、涙をこぼしながら読んでいて、よく分かりました。面白さはこの“描きたかったもの”にギュッと詰まっています。“一生懸命”という言葉が一番近いでしょうか。そして、それを見守ろうとする“優しさ”があることでしょうか。その空気がとても心地よくて、この作品はとても面白いものになっているような気がします。
・・・あぁ、きっと俺もその涙する少年を見たら、きっとこみ上げるものがあるんだろうなぁ。まぁ、それだけ自分も大人という立場になったのかもしれません。


悔しくって泣くという行為がどこか恥ずかしいと思ってしまっている自分がいます。作中、田島父が初段になれるか?と宝に問います。なれると思うと真っ直ぐに言ってくれる宝と、横でぷっと笑うおじさんがいます。大人になって、このおじさんと同じことを自分もしているような気がしてきました。いつから自分は他人の真っ直ぐを笑ってしまうようになったんだろう。この作品では、様々な大人が描かれています。夢をもう一度追いかけようとする大人。子供を見守る大人。夢を笑う大人。子供を下に見ようとする大人。どれもこれも大人の読者の目線になっているように思います。皆さんはどこにいるでしょう・・・?




そういえば皆さんは将棋ってできますか?最近はやってませんが、自分は昔、父親とやっていたような記憶があります。いつの間にか父親に勝ち続ける年齢になってましたが、最初の頃は本当に悔しくて悔しくて何度も父親と将棋をやった思い出がありますね。さすがにプロになろうとは思ったことはなかったですが、そんな懐かしい記憶を思い出させてくれる作品です。もちろん将棋じゃなくても同じだと思いますけどね。何かに夢中になっていた自分。そして、それを見ていた大人と同じ存在になれた自分。色んなものを気付かせてくれる漫画です。ちょっとふわふわした感想で申し訳ないです。でも、作品を読んで、このブログも読んで、同じような気持ちになってくれると嬉しいなぁと思ってみたり。オススメでっす。