君が僕のために弾いてくれるから「四月は君の嘘・4巻」


Q:今年一番の作品は?
A:四月は君の嘘


昨年、彗星のごとく現れた青春漫画四月は君の嘘。絶賛の言葉しか出てきません。今年一番の作品だと思います(なお昨年も言っていた模様)。読んでない人は絶対読んでほしい。きっと損はさせない。そんな作品です。泣くぜぇ、きっと泣くぜぇ。

元天才ピアニストの有馬公生とヴァイオリニストの宮園かをりによるボーイミーツガール作品です。とある出来事をきっかけにピアノの世界から消えた有馬公生が、宮園かをりとの出会いをきっかけに再度ピアノを始めます。最初はかをりが出場したコンクールへの伴奏(1巻、2巻)。そして、かをりによって半ば無理やり出場させられたピアノコンクール(3巻、4巻)。ラブもあるような無いような。何故かをりがここまで公生に肩入れするのか不明ですが、それでもかをりちゃんが見せる笑顔の1つ1つに公生自身が成長していきます。




○SIDE1:相座武士



公生は相座武士というピアニストを高みへと引き上げた

というわけで3巻からに引き続き、4巻では相座武士が演奏しています。ピアノコンクールのほとんどを制覇していた憎たらしい公生をライバル視していた武士。2年も休んでいた公生に対して圧倒的な演奏を見せ付けます。舞台から消えた主人公に成り代わり、若年のピアノ界を引っ張っていました。そろそろ世界を狙うという逸材であり、それもこれも公生という存在がいたから頑張ってこれました。
まるで見せ付けるかのような演奏をする武士。公生は憧れであり、倒すべき存在。目標であり、倒すべき存在。公生を、ピアノをやめてしまった公生を、負かすためだけにピアノに取り組んで成長しました。このあたり男の子だな〜と思わされる場面です。まるでヒーローに憧れる少年ではないですか。かっこいいヒーローになりたいと思う少年がするそれと同じものです。


相座武士は才能ある努力家であった。だからこそ彼を応援したくなる部分もあります。残念ながら次の少女によって印象が薄くなってしまうのですが、あえて言っておきたいのは、相座武士は頑張ったしスゲー奴だってことです。




○SIDE2:井川絵見



響け

4巻は、正直言って・・・井川絵見による井川絵見のためのお話だったと言っても過言ではないです。打ち震えるほどの物語を、演奏を、見せてくれました。まるで彼女による公生への告白の様な、絵見自身の人生を描いた様な。誰でもない“公生のための演奏”をしています。消えてしまった人のための恋焦がれるほどの演奏。もっとも、演奏を除くと公生にナイフを突き付けているようにも見えますがw


「私もピアニストになりたい」と思わせる演奏ができますか?

そもそも公生の“初めての演奏”を絵見は見ていたそうです。そこでピアニストを将来の夢に選びます。それだけ公生の演奏に惹きつけられたわけです・・・が、その後の公生の演奏は絵見が見た様なものではなく“メトロノーム”と揶揄されるような機械的な演奏をする公生でした。もちろんコンクール的には譜面を完璧になぞるような演奏の方が勝ちやすいんですよ。でもそれは、絵見が望んでいる演奏ではありません。
「本当の有馬公生は初めての演奏の中にしかいない」
公生も覚えているか怪しい初めての演奏。その演奏をずっと忘れずに心の中に持っていた絵見。本当の有馬公生を引っ張り出す、自分がピアノを目指すきっかけになった有馬公生を起こすためにピアノをやっていたわけです。しかし、当の本人はいつの間にか表舞台から消えているという・・・。そのため、公生が戻ってきた今回のコンクールにちょっとした執念を見せます。


圧倒的―。


話の作り方というか演出というか。井川絵見の演奏は圧倒的なものであることがページの隅から隅まで描かれています。通称、響け回。またの名を戻って来い回。作中でも最強のお話だったと思います。



私のピアノ・・・響け

本当の有馬公生に戻ってほしい。自分が人生を決めるきっかけになった有馬公生に届いてほしい。作中、何度も何度も何度も繰り返される「響け」という言葉に圧倒されます。女性だからこそ出来る感情的な、情熱的なピアノの音が、公生を、審査員を、聴衆を、そして読者を震わせます。





タン

演奏終了後の満足げな絵見がとても印象的で、この“やってやったぜ!”というちょっとした場面が好きです。まるで告白してスッキリしている乙女じゃありませんか。自分の人生を決めた男に捧げた演奏。怒りと寂しさが混在する演奏。響け。私のピアノよ響け。何を想い、何を感じて、演奏したか。
読んでみないと、この感動の全てが伝わらないのが残念です。ただ1つハッキリと言えることがあります。・・・グッバイ相座武士。




○SIDE3:宮園かをり



あなたも想いを託して弾くのね

一方のかをりちゃん。別に武士や絵見のために公生を引っ張り出したわけではありませんが、完全に当事者の一人です。絵見の演奏を聴いて意味深なことを呟いています。女の子同士だからこそ感じる部分があったのかもしれません。いや、演奏家の一人として感じたのか・・・。
もう謎、謎、謎の少女です。分かっているのは、ヴァイオリンがすごいってこと。それと病気だってこと。あとは笑顔が素敵だってこと。どうしてここまで有馬公生に肩入れするのか。本当に不思議です。ただ、絵見の演奏なども含めると、かをりちゃん自身も公生の演奏に影響された一人だったのかもしれませんね。有名人だった公生を知っていてもおかしくはありませんが、自身のヴァイオリンコンクールでの伴奏を頼むまでの経緯や、ヴァイオリンコンクールでのお話(これも相当すげー話でしたね)を見ていると、公生だからこそという雰囲気が出ています。
というか、死にそうで怖いんですけど・・・。フラグ立ちすぎて怖い。




○SIDE4:有馬公生



帰ってきた無敵の存在



ステンレスの様なピアノ


そして、ついに公生の演奏が始まるわけですが、武士と絵見による有馬評の違いがとても面白かったです。公生の演奏には3つの顔があります。1つは母親によって叩き込まれた無機質な最強の演奏。2つ目は絵見が見たと言う本当の有馬公生の演奏。3つ目はトラウマによって音が聞こえなくなりガタガタになる演奏。
その中で1つ目でもある無機質な演奏に対して、武士と絵見はそれぞれ異なる意見を持っています。メトロノームのような色の無い演奏であっても、譜面どおりに弾きこなす演奏に採点者はもちろん高得点を付けます。観客は高等テクニックに固唾を呑みますが、色の無い演奏であると見てしまいます。優勝する演奏を“無敵”だと称し憧れのまなざしで見る武士。こんなもの見たくないんだよとばかりに冷たい目線を送る絵見。少年と少女による公生の演奏への評価がもう・・・。


ただ、2年前にピアノをやめる原因となった3つ目の演奏に二人とも驚愕してしまいます。そこには最強の有馬公生も、本当の有馬公生もいません。自分のピアノを忘れてしまった有馬公生しかいません。




お前なんか死んでしまえ

というわけで、過去編に突入し、公生のトラウマが描かれます。
公生の師匠は母親でした。公生の母親は自分ができなかった“勝つためのピアノ”を公生に徹底的に叩き込んでいました。体も弱く、管付きの生活を余儀なくされていた公生母は、体罰も厭わずに公生に演奏を仕込みます。それでも「母親のため」にピアノをやめない公生は勝ち続けます。母親に教えられた“勝つためのピアノ”。自分のピアノではないけれども、頼れる武器もなく、ただただ「お母さんに喜んでほしい」と演奏し続けました。入院する母親に元気になってほしいから。
あまりにも健気な公生でしたが、たった一度、公生母のために色のある演奏をしてしまい、マジギレされます。・・・で、ついに公生もキレます。その後、すぐに公生母は死んでしまい、塞ぎこむ公生は音が聞こえなくなります。


壮絶。あまりにも壮絶。歪な親子の愛情によって生まれた無機質なピアノマシーンの弦は切れてしまい、音を奏でなくなりましたとさ・・・。
そんな第16話のタイトルは「ねぇ、ママ聞いてよ」。なんかもう・・・ね・・・。






有馬君は演奏家だもの

壊れた有馬公生が元に戻るのか。どんな演奏をするのか。かをりちゃんは信じているようですが不安いっぱいです。本当に大丈夫なんだろうか・・・。公生は何のためにピアノを弾いているのでしょう。そして、これから何のためにピアノに向かうのでしょう。続きは・・・5巻へ。音が聞こえなくなった状態で次巻へ続く―。





そんな良いところで5巻に行くわけですが、4巻以降の面白さも予想の斜め上です。まだ最新話を読んで泣いてしまいます。すごい。すごい。本当にすごい。何がすごいって全部がすごい。この作品を読まずして2012年は語れません。四月は君の嘘の面白さ・・・響け。