達海猛の終わりと始まり「GIANT KILLING・第30巻」



達海猛現役復帰!?

決して驚かせにくる作品ではありません。選手たちの成長を見守り、感得の采配に驚嘆し、一喜一憂するサポーターたちのように読ませてくれる作品です。しかし、今回ばかりは驚かされました。そして、改めて思い出させられます。


かつてETUには達海猛という偉大な選手がいたことを・・・






達海、まさかの現役復帰宣言。

さて、GIANT KILLINGが30巻に到達しました。10巻ではカレーパティーをしていました。20巻では難敵山形に対して成長を見せる試合をしました。そして、記念すべき30巻目は・・・タッツが面白いことをしでかします。
少し振り返りますが、28巻では躍動する椿がいました。アンダーカテゴリとはいえ日本代表に選ばれ、素晴らしい選手たちに囲まれ、そして試合で活躍する椿がいました。ずっと椿という選手を見続けてきた読者にとっては、育った我が子を見るかのような錯覚に陥ったはずです。また、29巻ではサポーターたちが一致団結する姿を見ることができました。昔を知る人間、今を進む人間、これからを見る人間。彼らが29巻目にして手に手を取り合う姿を見せます。

選手(一部)が順調、サポーターも順調。しかし、チームが順調というわけではありませんでした。良い順位にはいる。そこそこ良い試合もできている。ただ、どこか壁にぶち当たっている。そんな状況で迎えた・・・30巻目!!!




達海とサポーター

29巻から続いていた某赤いチームとの試合には負けてしまいました。チームのキャプテンであるコシさんが交代させられたりした試合でした。内容的にも完敗だったようです。タッツにとって唯一の収穫はサポーターの一致団結感だけだったでしょうか・・・。
ちなみにですが、タッツがサポーターと面と向かって話すのはこれが初めてではなかったでしょうか?特にスカルズ連中。選手時代はやたらとサポーターの近くに行っていたようですけどね。監督になってからは記憶にありません。そういう意味では、これって事件ですね!!
30巻冒頭のこのサポーターとの会話。改めてタッツの人気がうかがい知れる場面だったと思います。あと、サポーターたちの変化に気付いて、歩み寄ったタッツの一言がとても重いです。タッツは信用できる監督である。その統一見解がなされたサポーター連にとって、「借りは必ず返す」という言葉は期待させるものがあったのでは?よりチームとサポーターが密接になったのでは?と思えた良い場面でした。やっぱりサポーター話はいいですな〜。






・・・そして、上記冒頭の達海復帰という話になります。なお、こんなことを言っています。




使える選手がいない

言うねぇ〜。タッツ、言うねぇ〜。
どこまで本心かは計り知れませんが、選手たちを怒らせる言葉ではありますが、こんな一言から達海は自ら選手復帰を言い出します。そうそう。タッツ曰くそもそも現役引退なんて言ったことない」とのことです。いやまぁそうだけどさ・・・。
ちょっと詳細は割愛しますが、何気にジーノが良い反応をしていたのが好印象です。この後、ミニゲームをしますが、タッツチームにジーノが加わります。後々ですが、このタッツの発言を“選手たちの名誉を傷つけた”と言っていたので、多少はカチンときていたのでしょうかね。もしくはタッツの目的を最大限汲みとった・・・とも取れましたが。守備はしませんが、意外としっかりした選手なんだよなぁ。


というわけで、タッツが現役復帰を賭けてミニゲームをします。相手チームには黒豹や椿といったチームのメイン選手なんかもいます。普通にやれば勝てるわけがない。・・・いや、もしかしたら?達海猛という選手なら何かしでかすかもしれない?そんなちょっとワクワクさせる展開へと突入―。
色々と言いたいことはあります。達海猛はETUの星でした。日本代表にも選ばれる選手で、ボールを持てば何が起きるか分からない、チームやサポーターの期待を一身に受けた選手でした。




達海猛はヒーローだった―。



サポーターたちの目の輝きを見ているだけでヒーローであったことがよく分かります。確かに選手・達海猛は怪我をしました。ただ、本当に選手として終わっていたのか誰も知りません。もしかすると凄いプレーを隠し持っている?といった可能性を誰も否定できませんでした。
良いプレーをしたかしなかったか。確かにそれはそれで重要ですが、もっと大切なことがあります・・・。








達海はとても楽しそうにプレーしていたんです。
そんな彼を見守った、選手、スタッフ、サポーター、記者。昔の輝きを再度見ることができて喜ぶ人間がいました。本当に復帰できるのでは?と思った人間もいました。彼は一度消えてしまったヒーローです。懐かしいヒーローが帰ってきた。輝きを持って帰ってきた。達海猛という選手をずっと見ていた人間はどういう気持だったでしょう。







・・・ただし現実は残酷でした。






もうプレーができない身体でした

プレー中、ボールコントロールどころか立っているのすら危うい状況になるタッツがそこにいました。一瞬見せた輝きも、本当に一瞬だけ。ぶっちゃけ達海猛という選手は既に死んでしまっていました。これが現実。
読者側から言わせてもらうと、やはり他の登場人物と同じくタッツはヒーローでした。苦境もなんとかするスーパーマン。戦術で敵もサポーターもあっと驚かせる魔術師。ただし、それは監督としてです。達海猛という選手が、最強な選手として最高な選手としてプレーする姿を見ることは叶いません。でも、達海猛は楽しそうにサッカーをしていました。選手たちを傷つける言葉を投げかけてでも、彼は一度きり、きっと一度きりであろう選手・達海猛として現れました。


現役引退を宣言します

冗談のようで本気のタッツ。未練が無いわけない。絶対にあり得ない。ボールを蹴って、試合に勝って、みんなで騒いで。それが嫌なサッカー選手なんているわけがない。タッツは皆から愛されていました。しかし、選手としてサッカーの神さまから愛されていたわけではありません。個人的には達海猛選手物語(怪我をしないバージョン)でも絶対に面白い作品になるだろうと思っています。でも、そんな未来はあり得ません。
ワールドカップにだって出てみたかった。
タイトルも取りたかった。
タッツは選手として当然の望みを口にしました。彼にはその権利も才能もありました。ただ動けなくなってしまっただけ。そんなん、俺だってタッツをワールドカップに出させてやりてーよ・・・。




寂しい背中

タッツが見せたかったものは何なのでしょうか。他の人達は何を感じ取ったでしょうか。
チームは壁にぶち当たりました。その壁をどう感じるか・・・。タッツは達海猛選手を犠牲にして、チームの意識改革をしました。これで成功していないわけないとは思いますし、元々危機感を持っていた選手もいました。何かが変わる。達海猛選手を犠牲にして何かが変わろうとしています。





色々言いましたが、結局のところ・・・号泣してしまったわけですよ。特にワールドカップを口にした場面なんて特に。嬉しい涙ばかりを流させられた作品でしたけど、今回ばかりはどうしても悲しくなってしまいました。辛くなってしまいました。この作品は周囲の表情が描かれる作品です。だからこそ、復帰できそう?と思わせられた時の嬉しそうな表情も、やっぱり無理だった、むしろ選手として終わってしまっていたことに悲しんでしまう表情がたまらんかったわけですよ。
今回、節目の30巻でした。今後どんなチームになるのか。どんな試合を見せてくれるのか。タッツが残した足あとを楽しみにしたいと思います。椿もジーノもコシさんも・・・、全員でタッツが見たかった景色を見せてやってください。