青春に、恋とプールの“しかく”あり「サマーソルトターン」


 
夏はじまる!!

月刊少年マガジンがやばい。良い意味でやばい。四月は君の嘘」が終わった?それがどうしたと言わんばかりに次の物語たちが描かれています。最近のオススメは「サマーソルトターン」「盤上のポラリスでしょうか。前者は水泳、後者はチェスの物語。どちらもかなり良いですが、今回は「サマーソルトターン」の紹介。
原作は、これまた大好きだった月マガ「蹴児」で原作を担当していた井龍一先生。作画は、今はなきライバルでサクラサク症候群」という青春ものを描いてた保志レンジ先生。


いきなりフラれます

月マガといえばボーイミーツガール!だなと思っているのですが、この作品は微妙に違う。いや、絶妙にボーイミーツガールなのですが、作品冒頭で主人公・水野泳一郎が幼馴染の古谷ハルに告白して断られています。
ただ、けっしてハルが泳一郎のことを嫌っているというわけではないようです。むしろ彼に憧れていたような、昔の泳一郎ならと思う部分もあるようです。しかし、告白を断った。窓to窓な隣の家に住む幼馴染をフッたわけです。







理由は水泳を諦めたから。






52秒80という記録

神童・水野泳一郎。
主人公の泳一郎はジュニアオリンピックで優勝、さらには当時小学5年でありながら中学生よりも速いタイムを叩き出しました。いわゆる天才・・・でした。彼は、小学5年生で叩き出した52秒80という記録を、高校1年になるまで更新することはありませんでした・・・・。
月マガといえば天才を描いた漫画だなと思っているのですが、なかなかどうして。天才の挫折、そしてそこから立ち上がる姿を描いた作品となります。




神童と呼ばれた元天才、水野泳一郎。
元天才の告白を断った幼馴染ヒロイン、古谷ハル。
天才に憧れた自称ライバル、海老名江洋。
褐色少女、鮎川ルカ。

メインはこの4人。1巻では、四者四様の考えがチラチラと見てとれ、南王杯と呼ばれる地区の水泳大会に4人でリレーを行う方向に。水泳をやめていた泳一郎、水泳部とは関係のなかったハルが参加することになるわけですが、まぁ・・・・熱血ですよ。
水野泳一郎という水泳を捨てられないただの水泳バカがいる。それに憧れた少年、少女がいる。そして夏だし、プールもある。



あぁ・・・・これが青春か。





こんな4人どうですか?

2巻ではより水泳色の強い作品となっていきます。個人ではなくリレーで大会参加なため、チームとしての強さを求められます。ライバルチームも出てきたり、まさかの?いい勝負をしたりな2巻となってます(主人公たちは弱小高校)。結果は読んでほしいなと思うところですが、全員が色んな思いを持って参加しています。
ヒロインのハルは憧れた泳一郎に戻ってきてほしくて。実力の伴っていなかった江洋は、目標とした泳一郎の泳ぎに近づきつつあったり。もちろん皆に背中を押された泳一郎も・・・・


皆が俺を呼ぶ

アンカーを務めた泳一郎。1巻で謎の練習を続けていた泳一郎が自分の泳ぎを見つけるまで、結構読み応えあります。リレーで復活ってのが良いです。
天才と呼ばれた主人公の挫折。でもやっぱり水泳に戻ってきた男の、水泳バカの物語です。本当は数ヶ月前に単行本を出すことができたのに、夏に合わせて出したかったという戦略で最近2巻まで出したという本作。青春モノが好きなら、天才モノが好きなら、諦めない男のいる作品が読みたければ絶対に読んでほしいものです。オススメ!!!




以下、ネタバレありの本気の話題。








○海老名江洋という男



威勢はいいですが・・・・

実はお坊ちゃんというカレ。天才の名をほしいままにしていた泳一郎に憧れ、追いつこうと走り続けた(泳ぎ続けた?)わけですよ。面白いことに泳一郎の泳ぎに似ているようです。ずーっと泳一郎を見続けたハルが言うのだから間違いないと思います。ハルとの共通点が泳一郎に憧れたという一点ですが、意外と意気投合してます。おそろいのものを付けたり(泳一郎はできてない)、一緒にデートすることになったり。
うーん、意外とハルとのペアってのもアリなのだろうか。
水泳の方の話をすると、泳一郎が得られなかったフィジカルを得てます。身長がいい例ですね。世界の名だたるスイマーたちのような高身長。まだ荒々しいままの、伸びしろのある泳ぎ。泳一郎がちょっと嫉妬してしまうのもよくわかります。ただ、泳一郎と同じプールにいるからこそ、タイムも伸びてるのかなぁと思います。





○古谷ハルというヒロイン



憧れた人がいた

2巻を読み終わって、改めて1巻を読み返すと彼女が思い続けていたものがよくわかります。彼女は負けず嫌い。その性格もあり逆に水泳をやめていたタイプ。まぁ、隣に世代最強がいるのだからしょうがないような気もします。
でまぁ、ハルは泳一郎の告白を断るし、平手打ちをくらわせたりもしてます。赤い下着の似合う気の強い女性です。ただどう考えても泳一郎を嫌いではない・・・・はずなんです。そのはずなんです。憧れとして泳一郎を見ていた彼女は、水泳をやめてしまった、水泳しかない、水泳バカでしかない泳一郎が、水泳を諦めた時に何もしてやれなかったことに大きな後悔を持っていました。ただの男女物語であれば、横にいてあげるだけで〜なんて思いますが、この作品は水泳に情熱を傾けた水泳バカの物語なので・・・・。
もちろん泳一郎は水泳を再開しましたし、泳一郎は新しい泳ぎの形を少しだけ掴むまでいきました。
ただ、ハルは勘違いをしています。泳一郎が水泳を再開した直接的な理由が江洋なのだと勘違いしています。違います。キッカケは江洋ですが、泳一郎の胸に響く言葉を残したのは―。

そんな勘違いをしたまま、江洋に感謝しつつ、江洋との距離を縮めていくハル。泳一郎のことをずっと好きだったハルは、自分では成し遂げられなかった泳一郎に水泳をさせることを叶えた(と勘違いしている)男と仲良くなっていくわけで。そんな江洋もまた、ハルが憧れ続けた“昔の”泳一郎の泳ぎに似ていくわけですが・・・・。





○鮎川ルカという真のヒロイン



究極の泳ぎの形

四角関係の張本人です。大前提で一言言わせてもらえるなら、そもそもルカが可愛い。可愛すぎる。褐色の肌に元気な性格、誰からも愛されるタイプ。最強、つまり最強。
そんなわけでルカですよ、ルカ。彼女は江洋と幼馴染であり、兄弟みたいなものと江洋が言う仲だったりします。ハルは泳一郎の過去を知っている。ルカは江洋の過去を知っている。そんな状況。普通に考えれば、泳一郎とハルと江洋の三角関係物語にいる当て馬ポジション。しかし、実は泳一郎の水泳物語を唐突に復活させた張本人。「泳一郎は終わっていない」という誰もが思っていることを、泳一郎本人に納得させた張本人。泳一郎は、ルカの「究極の泳ぎの形は決まっていない」という言葉に突き動かされたわけです。
そして、それを知っているのは泳一郎とルカだけ・・・・。当て馬はハルのほうかもしれない(焦り







○水野泳一郎という主人公



究極の泳ぎの形

王道はハル。だけどルカでもよし!江洋とならなおよし!!←?
天才の挫折を描いたというのは本当に面白いですね。冒頭から挫折しっぱなしですし、目標に届かなかったという明確な指標もあったり、身長のこともあったり、そもそも話の展開としてわかりやすい。天才だって挫折すんだぞ!ってのが個人的に好きですし、2巻ラストでの「凡人になってしまった」という場面は今後も語り継がれるべき名シーンだったと思います。


名シーン(だと思う)

とはいえ、そもそもそこまでハナにつくタイプではなかったというか、好きな女にふられてやんのwwwやーいやーいwww・・・・くらいには思ってました。ゴメンな、泳一郎m(。・ε・。)m
で、2巻も読み終わるにつれて一つ疑問も出てきました。



泳一郎は本当に天才なのか?



アンタッチャブルレコード(52秒80)を出した時は、身長もあったし技術もあった。ただ、その時はたまたまだったのでは?なーんて思ってしまうわけです。泳一郎の才能は本物なのだろうか???・・・・と思いつつ、さすがにそんなことはとも思ったり。とはいえ、泳一郎が水泳好きだってのはよくわかります。ずっと言ってますが、水泳バカですしおすし。陸上は息苦しいと言いきるその姿は本当にバカ。でも、その姿がかっこいい。読んでいると、ハルたちと同じく応援してしまう自分がいるわけですよ。
水泳を捨てられなかった。まっすぐ目標を持って泳ぎ続ける。そんな主人公。
天才時代には得られないものを今、得ているのだと思いたい・・・・。







50mの四角のプールで起きる物語。自らに泳ぐ資格があるかを問い続け、幼馴染に恋する資格を求める物語。死角をねらったかのような恋物語、そして四角関係。次から次へと泳一郎に襲いかかる刺客たち・・・・は言い過ぎかな。そんなシカクい物語です。オススメ〜。