有名漫画家たちが描く“あの日”と“あの日から”「ストーリー311」



トーリー311

もう2年と捉えていいのか、まだ2年と捉えていいのか。2011年3月11日、東日本を想像を絶するほどの大地震が襲い、それに伴い発生した大津波により・・・信じられない規模の被害が発生しました。東日本大震災―。多くの方々が亡くなられました。皆さんは覚えていますか?皆さんは思い出すことはありますか?自分は決して被災した側の人間ではありません。現在も住む北海道で大きな揺れを受けた後、テレビから流れてくる目の当たりした・・・のみです。ただ、“あの日”にテレビで見たあの光景を決して忘れないと思います。



しかし、現実は被災地にこそあります。



“あの日”何が起きたのか。“あの日から”2年・・・被災地の方々はどうしているのか、どんな気持ちでいるのか。





被災地にいない自分にとって、それを知る術はなかなかあるものではありません・・・。







あの日とあの日からを漫画にしてみては?

自分と同じように、あの日の恐ろしい惨状に対して肩を落とされた方は多いと思います。講談社系漫画家さんでもある ひうらさとる先生もその一人で、自身に何ができるのかと悩んでいたそうです。そんな中、被災した方々の体験談、ボランティアさんの声を漫画にしてはどうかと言われます。その言葉を受け・・・ひうら先生は、ご友人の方々に声をかけ「ストーリー311」を作り上げました。
トーリー311はKissのweb作品です(http://kc.kodansha.co.jp/magazine/index.php/90004#specialBlock)。月イチで各先生方が自身の当時の体験、現地への取材を通して8ページの短く・・・そしてどこか分厚いストーリーを描いています。漫画家さんは漫画で何かを伝える職業。読んでいて、ちょっと自分でも驚くほどに泣いてしまいました。心がね・・・ずっとわしづかみされてるの・・・。読みながら、俺もまだまだ頑張らなきゃな、あの日を絶対に忘れないと強く強く思わされました次第です。


勇気を出してペンを・・・


公式HP http://www.story311.com/
<参加者>
ひうらさとる
上田倫子
うめ
おかざき真里
岡本慶子
さちみりほ
新條まゆ
末次由紀
ななじ眺
東村アキコ
樋口橘

発起人でもある ひうらさとる先生の最初の作品は公式の方で読めるようになっています。ちょっとした ひうら先生の覚悟が見て取れます。
正直、漫画にするということが正解なのかはよく分かりません。思い出したくないという人もいるかもしれません。ネットでは震災対応について色んな意見も見られます。それでも11人の漫画家さんたちは自分たちの目で見たものを、心で感じたことを漫画にしています。それこそ“勇気を出して”だったのでしょう。ただ一つ言えるのは、今現在“日常”を送れてる自分たちは忘れてはいけないということ。風化させてはいけないということ。そんな意味ではとても価値ある一冊になっているように思います。




後ろを走っていた人の姿は・・・

11のストーリーはかなりバリエーションにとんでいます。宮城、岩手、福島。それぞれが各地に行き、見てきたこと聞いてきたこと。“あの日”そのものであったり、“あの日から”のことであったり。きっと読む人によって、見え方感じ方は違うのではないでしょうか。
例えば宮城県での“あの日”を描いた東村アキコ先生。津波から逃げ切り、バラバラであった家族が再開したご家族を描いています。旦那さんが津波から逃げた際のお話がとてもリアル。ちょうどあの日に見たテレビで津波から逃げ惑う方々を思い出させるものであり、テレビ画面に釘付けとなった自分にとっては印象に残った・・・、もとい号泣させられた作品です。



少女の言葉

この本の最も重要な部分は福島も描いているということ。最もストレートに描いていたのは放射能に敏感になった主婦のお話でしたかね。こちらは岡本慶子先生が描かれています。また、ひうらさとる先生による、とある女性の言葉も・・・とてもとても重いものがありました。女性にとっては胸に刺さる言葉かもしれません(←男の俺が言うのもなんですがw
あと、全作品の中で最も子供を中心に置いた作品が印象に残りました。親のススメで福島を離れることになった少女の言葉。放射能が危ないから福島を出るとは友人にも言えず。卒業式にも出れず。戻れるかどうかも分からない。残った人たちの不安ではなく、あえて外に出た人の葛藤を描いています。これもまた一つのストーリー。







元気の活力を作った二人

個人的に一番好きだったのは、うめ先生のさんさカフェが出来る前のお話ですかね。さんさカフェ(http://sansacafe.iinaa.net/)は宮城県にあるお店です。避難所で冷たい飯ではなく、温かいものを作ろうと奮起した二人の兄弟が経営を始めたカフェ。食べ物の話はニュースでも何度か見かけましたが、冷たさ、量、種類といった部分は避難されている方の元気を削いでいったらしいです。そんな中、調理師免許を持つ二人が温かいものを作り始めます。描かれてる顔はちょっと怖いですけどねw、避難されてる方々を元気づけたヒーローです。
お腹がいっぱいになるって、元気の素です。こちらの記事(http://www.nikkei.com/article/DGXBZO39354140W2A300C1000000/)ではカフェについての詳しい話も載っていたりします。あわせてどうぞ。










漫画家さんたちの気持ち

さて、作品は8ページで描かれていますが、それプラスで1ページほど参加された漫画家さんがそれぞれの気持ちを描いています。取材で出会った人、取材の中で感じたことをご自身の言葉で描いています。本当はもらった8ページに自分の言葉を描きたかったのかも?と思う部分もチラホラ。まぁ、この本自体のメインは現地の方々でしたからね。仕事を完遂させた上で、残りの1ページに気持ちを込めています。
あえて末次由紀先生のページを選んでみました。絵で伝わるものがあります。実は末次先生のプラス1ページが一番文章量が少なかったり。他の先生方のプラス1ページではご本人の言葉を書いていたりします。でも、現地の人たちの顔が見れて・・・何か選んでしまいました。





プラス1を読んでいくと、多くの先生が描き足りないということを言っていたように思います。それだけ濃厚な取材をされ、それだけ多くの人を見てきたという証拠だと思います。基本的に数人しか描けませんからね。
あと、これもメディアでよく見かけるお話ですが、実際に被災地へ来てほしいということも作中で描かれてます。こちらは新條まゆ先生。



また来てほしい

自画のまゆ先生可愛いとか思いつつ、実のところまゆ先生は唯一のレポ漫画を描いてたりします。他の方々はストーリー仕立てなんですけどね。もちろんこれが良い悪いという話ではなく、これはこれで大切なことだと思いますので・・・。
まゆ先生は漁師さんやイベント主催者の生の声を伝えています。まずは一人でも多くの人が沿岸部のお魚を食べに来てくれたり、ボランティアに来てもらえたらな〜ということを感じたそうです。これは今後を見据える上でとても大切なお話ですね・・・。





いくつか紹介しましたが、他にも被災地での優しさの物語。お母さんが亡くなった少女の物語。流された店と新しく始めた店を描いた物語。色々あります。全部が胸に来るお話ばかりでした。悲しかったり、優しい気持ちになれたり。本当に読んでほしいなぁ・・・。
そうそう。とても重要なお話を忘れていました。この漫画の印税と収益は、被災地復興のために寄付されるそうです。何度か言いましたが、2年前の災害を忘れてはいけないんだと思ってます。そういう意味では、本当に価値ある一冊になっていると思います。泣きます。絶対に泣きます。しかーし!!!ちょっとした感想ですけど、あまり多く配本されてない気がするんですよねぇ。もっと大々的に全書店でアピールされるべきだと思うわけです。とはいえ、なかなかそう上手い話になるのも難しいようで・・・。もし書店で見つけたら手にとってもらいたいなぁと思います。寄付にも繋がりますので・・・。
買ってよかった。読めてよかった。やっぱり難しいテーマだなぁと思いつつも、これだけの1冊に仕上げてくれたことに感動せざるを得ません。この本を読んで感じた気持を絶対に忘れません・・・。オススメ。本当にオススメ。