あなたのお命頂戴します「UZSHI−ウツシ−」



香典はいりません

月刊シリウスは読んでいますか?ちょっととんでもない問題作?話題作?がよく眠っています。そんな素敵雑誌・月刊シリウスへようこそ。今回紹介する作品もなかなかの問題作「UZSHI−ウツシ−」。死を扱う作品なんですが、前提がおかしい。あきらかにおかしい。ただ、それが読む側の興味をそそります。


生命移植技師(通称:移師)の桜子

主人公は錬金術師でも結界師でも蟲師でもありません。移師(うつし)と呼ばれる、この可愛らしい女の子が主人公です。そして、彼女の仕事はたった一つ。それは”人を助けること”。人を助ける仕事といえば医師になるのが正しいのでは?と思われますが、移師の彼女は病気や事故に伏せる人を高確率で治すクスリ(のようなもの)を作成します。そのクスリは”人の命を移すことができる”クスリ。



・・・桜子の能力は他人の生命をまたその他人へ移す。それが移師。こう書くとちょっと分かりづらいかもしれませんが、つまりは瀕死の人がいれば元気な人の命を与えるわけです。
当然ながらここで不思議にだなと思う部分が出てくるはずです。移す作業の中で、確実に元気だった人は死にます。死んでしまいます。死にゆく人を助けるために、元気な人の命を奪い去るわけです。意味・・・分かりますか?そんな権利が今の世の中にありますか???


1.人間価値順位の高い「命の受給者」が生命の危機、且つ生きることを望んだ場合、ウツシが命の移植を行う
2.その場合に、命の受給者の三等心(知り合いの知り合いまで)の中でもっとも人間価値順位の低い人間を「命の提供者」とする
3.人間価値順位とは人間価値基準(学力・IQ値、特殊技能、容姿、精神力、納税力)から定められるものである
4.ウツシによる「命の移植」の執行には誰も逆らえない


この漫画では、国が価値の低い人間と認めた者を価値の高い人間へと生命を譲渡する・・・と取り決めしているわけです。あなたの順位は何番ですか?近くの死にそうな人の順位よりも高いですか?・・・そんな世の中ってどうですか?



設定だけで圧倒される「ウツシ」。冒頭から何度も言っていますが、前提がおかしいです。人に順位があること自体が不思議だなと思えてくる作品です。ましてや自分の順位が低いからと殺されなければなりません。今の世の中ではありえない、もちろん移師という存在がいてこそなわけですが、だからといって国が人を殺す順番を決めていていいんでしょうか・・・。
例えば、普通の友人は自分にとって二等心(移す対象は三等心)です。そして、その友人の知らない別の友人は3等心。友人を助けるために別の友人が殺されてしまったら?もしくは自分が移される立場になったら・・・。本当に恐ろしい漫画です。まぁ、きっとその世界にとっては、順位を上げようと悪さのない世界が導き出せるという理想があってのことだとは思うんですけどね。それでも惨い。いや、怖いというべきか・・・。





移される命

1巻にはまだ3話しか収録されていません。なお、その3話に出てくる登場人物の中で、苦痛の表情を浮かべて死んでいった人はいません。全員が笑顔で命を移されていきます。1話目に出てきた男の子は、お金をゆするような悪さをしていました。もちそんそんなことをしていれば順位が下がるのは明白。ある日、昔の彼女の命が危なくなる2等心と認められてしまいます。ただ、そんな悪さばかりをしていた彼がとった行動は彼女のために死のうと決意すること。


作中、桜子は「死に接してみないと人の本当の姿なんて分からない」と言っていました。まぁ実際にどういう行動を取るかきっと分かりませんが、ただただ死を待つようなことはしないのかな・・・と思ってみたり。



歌いきった踊りきった少女

2話目の少女はアイドルとして、最後に自分が本当にやりたいことをやって死んでいきました。ずっとやりたくないことばかりだったアイドル道も多少は救われたのかもしれません。
移師は天使か死神か。死の間際に本当の自分を見つけられた。死ぬことが決定して大切な人を守れた。ただ、自分の命を移される相手は順位が高いというだけ・・・。



読んでいて色々と難しく考えさせられました。学力が低い、容姿が悪い、納税してない・・・そんなことが人の順位を決めるファクターになる世界とは。実は嫌いだった相手の順位が高くて、自分が低くて。そんなことになったとしたら・・・ちょっと辛いですよね。だからこそ自分磨きを頑張る人が増えるという仕組みなんでしょうけど、ぶっちゃけものすごく理不尽です。3話目なんかは特に酷いなぁと思いましたが、そのあたりは読んでみて下さい。
まぁ、そんな世界ではありますが、「命の提供者」たる死にゆく人々が笑顔であったということも見逃せません。もちろん作者のさじ加減なんでしょうけども、もしかしたら本当に笑顔で命を移している可能性だってありますから。いや、でも命を移さなきゃいけないので死んでくださいって言われたら・・・どうするんだろうね。


一度読んでもらえば分かるはず。とにかく力強い作品であることには間違いありません。設定が設定なだけに、人それぞれで感じ方も違うような気がします。まずは皆さんがどういう気持ちで読むか。それも少し楽しみです。




来月に2巻が出るらしいです。