みんな楽しめ、そして泣け!「水面座高校文化祭」

皆さんの高校時代の一大イベントは何だったでしょうか?学園祭?体育祭?それとも修学旅行?彼氏彼女との思い出が〜とか言う人は消えてなくなればいいんだ(本音)。まぁ、どんなイベントであっても”楽しんだ”者勝ちです。ちょっとだけ手伝った人でも、中心となって頑張った人でも、ひとつのことを皆でやったという部分が思い出になるわけです。
good!アフタヌーンで連載していた「水面座高校文化祭」は文化祭を舞台にした作品。作者の釣巻和先生のどこかキラキラした絵に目が行きがちですが、物語もとっても素敵。文化祭の実行委員長・花屋敷都が責任を持ってお送りする楽しい楽しい文化祭。摩訶不思議なことや奇奇怪怪な出来事、そしてちょっとした恋愛、友情etc。色んなことが楽しく詰まった文化祭になっています。



こんなに楽しいなんて・・・

心から楽しめる・・・というのは若い内の特権かもしれません。この作品の良いところは、誰一人として楽しめなかった人間がいないことだと思います。そんな人間がいれば委員長の都が許しません。文化祭では神出鬼没。どこに出るかも分からない都が皆のために文化祭のために働くからこそ、全員で作り楽しめた文化祭へと誘われます。



分からない明日へ進もう

最新3巻(最終巻)ではついに文化祭の終了を迎えています。人間からお化けまで楽しんだ文化祭。特にお化けたちにとっては、人間が自分たちを認識してくれる数少ない機会として、明日へ進むのを遮ろうとします。しかし、そんなお化けたちに都は「明日に何が起きるか分からないなんていつでも一緒。だから毎日は面白いんだよ。」と説いています。確かに今(文化祭)が楽しいのは事実。それでも次の日に何が起きるか分からない宝箱のような日常を送ろうと笑顔で言い放ちます。これが花屋敷都という存在の魅力だと思います。
特別な1日だからこそ終わりも肝心というのは都の弁。終わりよければ全て良しという言葉もありますが、始まりから終わりまで全て良しだったというのが都流文化祭の特徴ですよ。


そして、お話は文化祭の核心へと進みます。




都には一人のお付きの子がいます。名前は草野。被り物をしているせいで顔がずーーっと見えなかったキャラです。ズボンをはいているので男の子と思いきや・・・。


都入学前の文化祭

都が水面座高校に入る前の文化祭はそれはもう惨憺たるものでした。ボロボロになったウェルカムボード、誰もいない学校。その中にたった一人でいたのが草野でした。実は草野は1学年上、そして女の子でした。しかもしかも、学園の理事長の子供だったそうです。
皆が知らなかった理事長の娘。その理事長も知らなかった草野の入学。そんなちょっとややこしい流れが草野自身を苦しめていきます。隠し子でもなんでもないのに、隠さなければいけない事実。うわさは悪い方向へ流れに流れ・・・。


学園の評判を落とした理事長と草野。まぁ、いじめられますわな。





で、それを救ったのが花屋敷都でした。草野という少女を救い、学園を救い・・・。裏の裏を見ると、実は草野のために、いい学校を作るためにというちょっとした個人的な気持ちが多分に含まれた行動が都の根本にあったわけです。
皆が楽しむ学園祭をやろうと思ったのが、草野の居場所を作りたいというのが最初というのに驚きました。理事長はそれを見て”縛ってしまった”と感じていたようですが、全3巻に渡る楽しい楽しい物語が縛られているわけがありません。





風船に埋め尽くされた夕空

最後の最後に待っていた都ですら知らなかったイベント。都への感謝の気持ちが含まれていたのか、皆笑顔で風船を上げています。
この後、学校の外でも風船が上がるのを確認され「きっと都がやってるんだな」と都の家族が言います。ただ、都は風船に関与していないんです。都の家族ですら都の仕業だと思った出来事を都以外がやった・・・。都に楽しませてもらった皆が都化した瞬間でした。たったそれだけのことなんですが、最後の最後に起きたこのちょっとした出来事に嬉しくなりました。



いやもう、本当に語りつくせません。他にも生徒会長の話とかも秀逸で大好きなんですよ。他にもいっぱいサブキャラ話があるんですが・・・。
皆さんも思い出せば3年間の中に色んな思い出が詰まっているのではないでしょうか。水面座高校で描かれた物語はそのほんのちょっと、それも文化祭で起きた出来事しか描かれていません。しかし、その文化祭を描いたたった3冊の中に自分の思い出がたくさん見つかりそうな作品になっています。文化祭と同じく残念ながら終わりを迎えている作品ではありますが、そんなちょっとした思い出を見つけるために読んでみてはいかがでしょう。オススメ。