ちょうど3年分そろったしそろそろ四季賞ポータブルを振り返ろうぜ・その3

今回で3回目です。そしてとりあえずはラストです。
1回目:http://d.hatena.ne.jp/toldo13/20090316
2回目:http://d.hatena.ne.jp/toldo13/20090415/p1
漫画界に数多くある新人作家の登竜門の中でも、特にレベルの高い四季賞。ジャンルや作品のページ数も限定しないという自由なやり方と、数多くの実力派有名漫画家がここから巣立っているところからも非常に期待のできるものだと言えます。また、3年前からはポータブル版の四季賞が始まりました。ポータブル版はとても読みやすく、且つ保管しやすいので助かります。そんなわけで、3回にわたって過去のポータブル版のみの四季賞を総括しています。新しい芽を見つけるためのちょっとした発見があればいいですね。


第3回は2007冬〜2008秋です。ちなみに2008冬はもう既に出ていますので気になった方は見てください。感想はコチラ→http://d.hatena.ne.jp/toldo13/20090426/p2



2007冬


四季大賞:「道」「海へ来る理由」和田依子
四季賞:「ゲットーの太陽」ナカトモユキ
四季賞:「WORKING ROBOTA」野村亮馬
特別賞:「父がカツラを買ってきた」高辺祐太
準入選:「プレハブブレイク」大城百
準入選:「さよならの子供たち」岩渕竜子


佳作:「【ウルウ】」伊咲ウタ、「竜狩族」平松歓之介、「ブロイラー・ガール」手羽先チキン、「唱歌する窓際」峰浪りょう、「つつじ恋歌」神山ハバト、「ERRAND」森紅、「ハリジャンの小島」荻野桂帆、「イケメン帝国衰亡史」赤峰亮介、「アス」谷口晴香、「スター」手原数憲、「Dear Hunter」小林嵩人、「まだなくならない」晴野洋、「秋炎のピーター」kiwi kazak、「王さまとねこ」地球田だいこう、「ハードコアライフ」山浦ユウヤ、「魔王と姫」木原敦、「彼女のために」和島さやか、「2階から冬瓜」榎木祐央、「蚊取線香厳禁」ノラキジトラ



ついに和田依子先生が来ました。実はこの2007冬で四季大賞を取る前に3季連続で佳作以上という実力派。四季大賞を取った「道」と「海へ来る理由」という2作品とも面白く、しかも全然タイプが違う作風で来ているということを考えてもレベルが高い人なんだな〜ということを思いしらされます。ちなみに、「道」は継母を介護する女性の物語で、非常に力強い、生きることに対してしっかりした道というものを示した作品だと思います。また「海へ来る理由」は変わった力(比喩が本当になる程度の力)を持ち、友人の女の子と楽しそうに過ごすお話・・・ですが、あまりにも簡単に紹介しすぎですみません。どちらの作品も何かが起きる・・というわけではなく、ほんの日常(のようなもの)を描いています。逆にそれが四季賞っぽいなぁと思います。ちなみにバーサス!という作品で本誌に連載を持ちました。
四季賞については「ゲットーの太陽」という作品でナカトモユキ先生が受賞。ボーイミーツガール的な内容で、ひとつの物語として完成していました。ただ、ヒロインが乱暴されるのって苦手なんですよね・・・。特別賞には高辺祐太先生が「父がカツラを買ってきた」というギャグ漫画で受賞しました。四季賞のギャグはわりとぶっ飛んだのが多い気がしますが、この作品はわりとほのぼのとしていて好きでした。カツラの上にカツラを被って、さらにカツラを被るお父さんがとても親しみやすくて良かったです。



というわけで、ここでプッシュしたい作品は「WORKING ROBOTA」の野村亮馬先生です。知っている人は知っていますが、現在本誌でベントラーベントラーを連載しています。このベントラーベントラーのレベルがかなり高い。以前お会いした、。が絶賛していたのがいい思い出です。


ベントラーベントラー(1) (アフタヌーンKC)

ベントラーベントラー(1) (アフタヌーンKC)


今のアフタヌーンの中でも唯一と言っていいSF作品です。非常に愛くるしい(←本当か?)キャラクターがとても印象に残ります。そんなベントラーの系譜が、受賞作である「WORKING ROBOTA」にあったように思います。SFチックでありながら愛嬌があるデザインはこのROBOTAからも見てとれます。また、内容を取ってみても、ロボットに「サンドイッチ消毒係」と付けるような作品ですからね・・・。なかなかアグレッシブです。



グフタではなく本誌で野村先生を使ったのは英断でも何でもなく、完全にアフタの最善策だったと思います。その才能をこの四季賞で発掘できたということを考えると、非常に優秀な賞なんだな〜と思わされます。あ、もちろん2回目でプッシュしまくった太田モアレ先生もそうですがね。









2008春


四季大賞:「帰っておいで」伊咲ウタ
四季賞:「アジサイ」浅沼悠
特別賞:「糠床何処どかぬ」ほぎめ庭
準入選:「Join us!」茂木清香
準入選:「自殺幇助人」加納梨衣
準入選:「Scarecrow」丹羽麻里子
準入選:「野良天使」竹本友二


佳作:「カタリ・コトリ」傘屋優、「雪の女王」翁丸、「喪男三銃士」譲、「娼婦ディアマンテ」小川ヒトシ、「夏の終わりのファンタジア」森井じい子、「法廷アンビヴァレンス」曲戸終、「サメヅマカゲキ」大野俊、「南総里美失恋伝」あかもと彩亜子、「痛いコども。」佐藤はるき、「ENIGMA」森慧久、「みんなぼっち」フー星人、「ライカビリティヒーロー」町田周、「ものづくり」山田怜、「消えた魔球」菅康雄



お気づきになりましたか?四季大賞と四季賞を取られた伊咲ウタ先生と浅沼悠先生は、先に紹介した2007冬で佳作を取っています。頑張られたんでしょうねぇ・・。ちなみに、伊咲ウタ先生はグフタで連載を持ちました。オメデトー!!!何と言ってもアフタらしからぬ絵の描き方が僕ぁー好きなんだなー。




受賞作の「帰っておいで」は仲の良い姉と弟のお話なんですが、仲が良いと見せかけて・・・なお話。ちょっと絵の話が先行してしまいましたが、前に進もうという意欲を見せる作品はいいと思います。死んだ母親に縛られた弟を見守る姉という設定が好きです。俺もこんな姉がいたら・・・と思いつつ、やっぱり絵の話に戻ります。選考委員のうえやまとち先生も選評に書いていたのですが、瞳の描き方が素晴らしいと思います。というか不思議な魅力のある瞳です。あえてその瞳が出ている絵を選んでいませんが、そこらへんはグフタで連載しているので見てやってください。


一方、四季賞の「アジサイ」なんですが・・・、すんごい面白かったんですよ。四季大賞が絵なら、四季賞は設定が面白い作品でした。浅沼悠先生のレベルの高さ、話の作り方への意欲が窺えます。いかんせん連載をどこにもしていないのが残念でなりません。二重人格の夫を持った二人の妻が同居したら・・・という設定だったのですが、オチへの持って行き方が本当にいい。短期連載や読みきりで活きそうな作風だと思うので、是非是非見たい漫画家さんです。
また、特別賞のほぎめ庭先生の「糠床何処どかぬ」という作品もまた四季賞らしいほのぼの系漫画として良かったです。そもそも絵がアフタっぽくて助かります。というか漬物占いを最後に持ってくるあたり素敵。糠漬けが食べたくなります。(←そんなことを思わせてくれる漫画が存在したことに驚きです)









2008夏


四季大賞:「夢」平松歓之介
四季賞:「クシナダの嫁入り」文月悠
特別賞:「モンタナレコード2号店絶賛営業中」佐田茂輝
準入選:「ラピスラズリ」杉乃鉱
準入選:「サヤビト伊咲ウタ
準入選:「Beautiful World」牧田紗綾
準入選:「宇宙トマト」タヤマ碧


佳作:「ブリキ」芳雄みのる、「審美眼」宮尾生巳、「グラディアドル」小川ヒトシ、「解呪」亘景吾、「侍二人とその傍杖」円城寺真己、「発明家ジークバルト」白杉ゴマ、「千里を往って千里還る」たがわまり、「桜時雨」雨宮樹、「痛点覚」保科祐一、「星をめぐる少年」垣内悠友子、「フールメン」佐藤庸平、「空腹の獣」一之瀬暁子、「東京トゥルーパーズ」竹ノ内仁、「おしいれさん」遠野ブンゴ、「みのおとまるこど」河江一仁



四季大賞の「夢」は一コマ一コマが絵のような作品でした。元々、平松歓之介先生もそういった絵を主体にした漫画家さんなのかな〜と思わされます。また、四季賞の「クシナダの嫁入り」も作品としての読み応えがある漫画でした。文月悠先生には期待しています。もう少し柔らかさが出てくればきっとより面白くなるような気がします。特別賞の佐田茂輝先生の「モンタナレコード2号店絶賛営業中」はギャグ漫画での受賞。以前にも書いていますが、ギャグ漫画は選ぶ人の感性が強く出るジャンルだと思います。・・・まぁ、そういうことです。
特にこの2008夏では言うことはないんですよね。面白くはあったのですが、他の時期の四季賞に比べて飛びぬけるものが無かったような気がします。これに関しては俺自身の考え方、楽しみ方があるので一概には言えませんが、こういう時もあるだろうと思います。









2008秋


四季大賞:「三文未来の家庭訪問庄司創
四季賞:「星の国」加納梨衣
特別賞:「夏の終わりの逃飛行」阿部玲子
準入選:「はじめての海」築城実
準入選:「青いモーリス」佐藤はるき
準入選:「ことりとてとりとさとり」八合信之助/道代みちる
準入選:「ドロップアウト」小川裕豊


佳作:「多華子のいた町」サンタマクラ、「魔女とカミナリ様」青柳高博、「始まりの色」谷口晴香、「いってしまった人達へ」遠野ブンゴ、「光彩基地」神山ハバト、「ウサギとカメ」「How To LEAD A FULL LIFE」丹羽麻里子、「むこうからの電話」「こちらからの手紙」菅康雄、「ファンタスマ」鈴村奏子、「ナモナキ街」長田晋輔、「正しいママの作り方」黒崎カヨウ、「The Lost Sheeps」林原鈴二、「彼女がエイリアン」手羽先チキン、「秋の桜」須藤由華、「星が沈丁花」垣内悠友子、「夏酔い」山本中学、「三丁目の駄菓子屋」長田佳奈、「方々想い」大野俊、「融合少女とうさぎむし」小野春樹



先に言っておきますが、特別賞の「夏の終わりの逃避行」が苦手です。阿部玲子先生の絵とか雰囲気は好きだったのですが、女性がちょっとでも不幸なのってあまり好きではありません。生きることに関してそれが通り道だとしてもです。主人公の母親と亡くなった夫の父親が抱き合っているシーンなんて胸糞悪くて・・でした。というか主人公がどこを向いていたんでしょうね。家族を見ていたのか、学校を見ていたのか・・。それを含めての作品だったとは思いますが。結局は誰がじいさんを殺したんだろうか・・・。今でも分かりません。先にも書きましたが、絵の雰囲気とかは好きなんですよ?特にヒロイン(だと思われる)の高野なんて超絶可愛いです。その高野を結局拒絶するような態度を取った主人公も意味が分かりませんでしたが。後になってからですみませんが、その高野と一緒にクラス委員をするという光の部分と、複雑になってしまった家族関係を対比させながら見せる作品でした。
四季賞には「星の国」で加納梨衣先生が受賞しています。受験戦争真っ只中の恋物語。好きになった相手は・・・・オカルト宗教にご熱心な女の子。偶然もっていた星のお守りを持っているところを見られたことからお話しすることになります。ちなみにその宗教ではメーリータ様が星の国に連れて行ってくれるという教えらしいです。結局はお金に困ったその少女の家庭は蒸発するというオチです。たとえ宗教であったとしても、まっすぐ何かを見ている人に惹かれてしまうというテーマが良かったと思います。



何故かこの時の四季賞は男女関係の物語が多かったです。というわけで、四季大賞の「三文未来の家庭訪問」も男女ものです。ただし、ダントツでこの作品は面白かったですね。庄司創先生は今後がとても楽しみだと言っておきます。




男女もの・・・と書いておきながら、実は女女ものかもしれない同作品。遺伝子操作が行われた世界で、女性のみで生殖活動ができるように作られた集団の一人の男の子(女の子?)が日常生活に溶け込んでいく内容になっています。未来がどんなものになっているかは分かりませんが、色んな可能性を秘めていることは確かだと思います。そんな世界でどうやって生きていくかがこれからの人類にとっても重要なのかもしれません。
主人公の男の子・リタは自分の身体をバカにされていることろを支辺マキという少女に助けられます。しかし、そのマキちゃんは家族の参加する団体に参加しており、これまた複雑な状況だったりします。何より母親の議論好きには滅入るものがあるかもしれません。マキちゃん自身も多少参っており、そこにリタが参加することで・・・というお話です。その議論好きの母親とリタ議論で渡り合うシーンがかなり好きです。で、こういった設定もいいのですが、色んな軸が話の中に組み込まれながらその軸が一切ブレていない話の作りが素晴らしいと思いました。ちなみにこれが庄司先生にとって初作品だったというのが驚きです。





既に2008冬が出ていますが、またその4ができればいいと思います。
何より四季賞は面白い。読む時間がないーと思いながらも読む時間をわざわざ作って読みたくなります。新人さんが持つ勢いと強さがここに詰まっています。また、ここから旅立っていき、その後の活躍を知ることが出来ればなお嬉しい。何度でも言いますが、四季賞は面白い。