ちょうど3年分そろったしそろそろ四季賞ポータブルを振り返ろうぜ・その2

というわけで2回目の四季賞ポータブル振り返り企画です。簡単に主旨を振り返っておきます。
新人賞のレベルの高さは漫画界でもトップクラスというアフタヌーン四季賞その四季賞の発表と同時に四季賞ポータブルという小冊子が3年前から付いてきています。雑誌掲載と違い保管のしやすさは桁違い。せっかくだからと3年前から取っておいたわけですが、せっかくなのでそれらを紹介しつつ新たな才能の発掘現場となればいいな〜と思い2005冬〜2006秋を前回紹介しました。新人発掘・・と言いながら実は今出てきている新人作家さんを振り返っているような気もします。ちなみに前回の文章はこちら(http://d.hatena.ne.jp/toldo13/20090316)


今回は2006冬〜2007秋までです。この4回の中に衝撃の出会いがあったことは言うまでもありません。素敵な1年をこの年は過ごしました。



2006冬


四季大賞:「ムスコはオヤジ」天野聡彦
四季賞:「ある日、ウンコマンと俺ら。」円城寺真己
特別賞:「6時の男」さだやすあゆみ
準入選:「躁 BEAUTY FOOL」広重
準入選:「蘇生術」ななほし天斗
準入選:「一人暮らしのホステスはじめて新聞をとった」藤本圭
準入選:「STORY WRITER」池谷由樹


佳作:「彼女の甘いもの」いのうえともこ、「さよなら三角」ツカモトたけい、「黒神運輸」喜元むつみ、「孤虫」荒波ギガ、「ハッピーメルヘティカ」山浦ユウヤ、「コウリンズ」桜井画門、「ケモノと道士の徒労譚」斉所加寿雄、「夢を見るには」森田晋、「14か15」銅☆萬福、「鬼婚」大島未椰、「顔面FLY」五十嵐寛和、「BIBLE」ORA、「鷹と王」出島綾



四季大賞にギャグ漫画の「ムスコはオヤジ」が受賞する結果となりました。色んなジャンルの中でもギャグ漫画って好みによるところが大きいですよね。まぁ、そういうことです。内容としては、死んだ父親のお墓にオシッコしたらムスコにオヤジが乗りうつる・・というお話。この時点で好みが分かれるような気もしますが・・・。それでも四季大賞ですので。一方、四季賞には「ある日、ウンコマンと俺ら。」という作品が入りました。四季大賞にしろ四季賞にしろなんという下品な・・・。ただ、このウンコマンはヒーローの頭がウンコの形をしているというだけで、内容は至って面白かったです。自身の信じるものって本当に見えたもので覆るものですよ。四季賞らしいタイプの作品だったように思います。



というわけで、2009冬に取り上げるのは特別賞の「6時の男」です。ザ・読みきり!というタイプの漫画でした。全体を通してダンディ感たっぷり。日本人の男が持ち合わせていない方のかっこよさが素敵な雰囲気をかもし出していました。
約束を守ることが男。ルールを遵守してこその男。そんなキッチリした生活をするミスターパーフェクト。亡き父親からの言葉「男はかっこよく」を50歳をすぎても守り、我が子に受け継がせています。そんなパーフェクトがたった一人の青年に一目ぼれしてしまいます。アイスクリーム屋で働くその青年に会いたいがため、嫌いな(?)甘〜いアイスを買っては捨てる毎日。しかし、そんな日が続く中で(ちょっと悪い仕事をしていたこともあって)、その青年の父親を街から追い出します。あわせてそのアイスの青年も出て行くことに。偶然、そして初めてまともにその青年と喋り、「人には色んな側面がある」と気付かされます。




父親からの「おまえが知っていると思っている人間も事柄も 見たことのない一面を本当は持っているのかもしれない」という言葉が非常に心に響きます。なかなか文章だけでは伝えきれませんが、外国人風の男性が子供に諭すように語る様は非常にかっこいいです。「男はかっこよく」という言葉も素敵ですが、ちょっとくらい緩いときがあってもいいじゃないですか。それでもかっこよく見えるんですから、「男の生き方」を強く意識させられる作品でした。残念なのは、これ以降特にさだやすあゆみ先生の姿が見えないことくらいでしょうか。まぁ、それも四季賞らしいと思いますが・・・。









2007春



四季大賞:「東日人民よ!」山口甚八
四季賞:「囚われクローン」太田モアレ
特別賞:「黄色い家」新田章
準入選:「山本兄妹物語」和田依子
準入選:「戦国フラッシュ!」茂木清香
準入選:「妖精のポルスカ」文月悠
準入選:「ウロト」田中一行


佳作:「観覧車っって」原田憲一、「霧の中、君を見た」三輪誠、「クライワールドロマンチカ」山浦ユウヤ、「夕暮れ」多々羅剛、「赤い靴」名切望、「契機」彩田香、「音のない川」山田胡瓜、「がくと」クリストファー・鉄平、「忘れな草の歌」小早川結子



この時、初めて太田モアレ先生と遭遇しました。面白いという感想が真っ先に来ましたが、まさかここまで好きになるとは思いませんでした。四季賞を読んでいて良かったと思う瞬間の一つですね。そんな太田モアレ先生が初めて世に出てきた作品でもある「囚われクローン」が四季賞を受賞しています。
この作品は死刑が無くなり、クローンの技術が発達したとしたら・・というお話です。そうなった場合、100年なんていう刑期もクローンが全うしなければならない時代になるわけで。結構テーマとしては面白いと思います。




そこまで印象に残るようなシーンがある作品ではありませんが、とりあえず「ぬぬぬぬ」というシーンを抜き出してみました。勝手にモアレ擬音と読んでいます。まぁ、このコマだけでは分かりかねますが、太田モアレ先生は本筋をうまく隠す漫画家さんです。


なお、四季大賞は「東日人民よ!」という作品が受賞しています。これぞ四季賞!という作品です。絵は荒々しく、中身はしっかりしているタイプです。多分東日本が舞台ですが、東日本は将軍様にばんざいして西日本は民主化されている・・・という内容です。こういった話が上がってくることも四季賞らしいですよね・・・・。いや、知らんけども。また、特別賞には「黄色い家」という作品が選ばれています。絵描きのダメ父を中心として、依存しまくりの母親とそれを見ながら姉妹たちが前に進んでいくお話です。・・・すごく省きすぎですね。作者の新田先生も言っていましたが、かなりキラーネタです。ダメな父親と分かりつつも、その父が倒れて、現状を知り結局自分(一卵性で妹なのか姉なのか分からない)も絵を描き始める・・・あたりなんて顕著に現れていると思います。
まぁ、何はともあれ太田モアレ先生な2007春でした。









2007夏



四季大賞:「キレもん」銅☆萬福
四季賞:「あの星のかけら」芝孝次
特別賞:「赤子」及川由美
準入選:「プログレ」宮川輝
準入選:「バク心宙」弘下司
準入選:「野球という魔法」青柳高博
準入選:「バーバラックス天国」クリストファー・鉄平


佳作:「電脳アフロディテ和田依子、「すきということ」大城ようこう、「フロムグングニル」矢野稔貴、「ウェビフの花」長田佳巳、「ESKAPE KEY」RENDA、「そのあて先は、ベランダで」織江搭、「ハジマリノウタ」はこいぬ、「ワンダ」みちなかのりえ、「おおぞらジャズ」タマヤ碧、「水面照る」出島綾、「師範代八昭の涙」あかもと彩亜子、「エロメガネ男子×女子」吉原十、「秘密の花園」高津マコト、「girlガ有ル」縞屋晶、「夢のつづき」深水チロリ



四季大賞は「キレもん」で銅☆萬福先生が受賞。冬の四季賞で佳作に入っている方です。そのタイトルの通り?痔のお話。痔を通して繋がる人と人の話なんですが・・・、痔て。話の内容より血がついちゃったパンツを洗う弟の姿を見て、「弟が受けなんです」とスレ立てしている姉がツボでした。ここでふと思うのは、四季大賞はわりと万人受けするものよりも、少人数にバカ受けする作品が選ばれているような気がします。特別賞は「赤子」。赤い目をし、親に捨てられ、忌み嫌われた鬼の子と言われ続けた少女のお話。全体的に暗い雰囲気が漂っています。谷口ジロー先生の選評にもあったのですが、非常にキャラが強いです。執念を感じます。及川先生の他の作品が読んでみたいよ・・・。
というわけで、ここらで芝孝次先生にも言及しておこうかなと思います。四季賞を受賞した芝先生は2006年夏で特別賞をとっています。その時はどうしても市川春子先生に触れたかったがために、泣く泣く断念しましたが、今回はどうしてもということで芝先生を挙げておきます。
内容としては、ある青年がやむなく主人公の少女・ロッタの家に売った隕石を中心とした成長物語となっています。どうしてもその隕石が欲しかったロッタは、買戻しに来たその青年、そして両親に嘘をついてくすねます。しかし、自分のやってしまったこと、また青年との会話を通して自分がどうするべきかを考えます。文章にしてしまうとちょっと固く感じますが、絵からくる柔らかさが、成長ものとして一歩進めます。




芝先生は総じて人とのつながりを優しく描きます。少女の感受性、新しい出会いから得る世界の広さ・・・。線的な絵ではないことが大きく影響しているように思います。大切なことは、誰かの気持ちになれること。自分だけでセカイを作らないこと。少ないページながらも人にとって大切な多くのことを描いています。柔らかくて暖かい、素敵な作家さんです。









2007秋



四季大賞:「魔女が飛んだり飛ばなかったり」太田モアレ
四季賞:「乙女ノート」永田ゆき
四季賞:「日々うつろい」谷藤満
特別賞:「星のやうにさよなら」志ろう
準入選:「friend」和田依子
準入選:「最硬伝説横嶋虎雄」ねこたらん


佳作:「アカシックレコード」ツカモトたけい、「プレスリリース」宮川輝、「スカイジャック」シガー・ダックス、「幽霊とブタ共」バンドウマイ、「僕はフトンです」杉浦由梨、「雨香の妖刀」群田御先、「彼方より来るものは」荒波ギガ、「君といた夏」ファニー/篠崎司、「マドロハンズ」浅沼悠、「にじのはね」須藤由華、「薬草師と水まきバイト」杉乃鉱、「ステナグラファ」クリストファー・鉄平、「DEAREST MY FATHER」丹羽麻里子、「しぬまで」三友恒平



2007は同じ方々が佳作以上に出ていますね。まぁそれはそうと、この2007秋は永久保存版ですよ、マジで。まずはなんと言っても四季大賞に太田モアレ先生の「魔女が飛んだり飛ばなかったり」が選ばれています。どちらかというと前作の囚われクローンよりも好きです。そこらへんは以前にも書いたのでそちらをどうぞ。(→http://d.hatena.ne.jp/toldo13/20090331/p2)




ここ数年の四季賞をしっかりと読んでいる方は、少なからずこの太田モアレ先生は押さえているはずです。
また、永久保存版と言うからには他の作品も素晴らしいです。「女の子」というものを、乙女ノートと日々うつろいでは違った角度で見せてくれます。なお、乙女ノートの永田ゆき先生はあのおおきく振りかぶってひぐちアサ先生のアシスタントらしいです。今もなのかは知りませんが・・。一方の日々うつろいは漫画というよりはコマの中にある絵を楽しむような漫画になっていますまた、志ろう先生の「星のやうにさよなら」の完成度は見るべきところが多々ありました。



もし急に親友からこんなことを言われたらどうですか?驚きませんか?この「星のやうにさよなら」では、一人の人間が死ぬ間際までを親友視点で描いていきます。どうして死ぬんだから死んでほしくない、死にたくないというところまで、上述したとおり完成されています。上の絵から、最後の方で言う「死にたくない」という絵の対比は数回読まないと気付きませんね。本当の気持ちを話せる友人はいますか?本気で死ぬなって言ってくれる親友はいますか?親友を大切に思える漫画でした。残念ながらこの作品以降、志ろう先生を見ていないのが残念でなりません。





また近日中には3つ目をやりたいと思います。楽しみに(?)していてください。