ちょうど3年分そろったしそろそろ四季賞ポータブルを振り返ろうぜ・その1

アフタヌーンが行なっている新人賞といえば四季賞です。この賞は80年代後半という時代から長く続く伝統あるものであり、ジャンルや作品のページ数も限定しないという太っ腹なものです。その分レベルの高いものであり、過去にも多くの有名漫画家がここから生まれました。いまだに堂高が四季賞で賞を取っていたことに違和感を覚えますが・・・。


その名の通り1年に4回。今回取り上げる過去3年分では冬:かわぐちかいじ先生、夏:うえやまとち先生、春:谷口ジロー先生、秋:池上遼一先生(2008秋は萩尾望都先生)といった豪華布陣の審査員たちが新しい才能を見守り、すくい上げています。


四季賞はレベルが高い」というのは今や定説。


ここで賞を取れる新人さんたちは、アフタヌーンを、講談社を、大きく言えば漫画界すらも支える種です。今のうちにチェックしといて損はないかも???ちなみに今回は過去3年分ということですが、この3年前からポータブル版として「四季大賞」「四季賞」「特別賞」を小冊子に載せています。邪魔だという声も聞こえてきたりしますが、保管しやすいという点で俺は好きです。




2005冬


四季大賞:「トラベラー」今井哲也
特別賞:「女王の傷」篠崎司、秋野めぐる
四季賞:「SADOMARU-サドマル-」山下貴仁
準入選:「飛ぶ」成松幸世
準入選:「叫」ユウ
準入選:「たった14年の孤独」青柳高博
準入選:「アルケロンの庭」伊藤匡倫


佳作:「桜紅bllet」端野洋子、「マウント親父よいつまでも」高橋里佳、「EAT GAME」青井竜也、「目蓋の裏の街」征矢真実、「洗下星寂」縞屋晶、「さよならのつめあと」コウイチ、「みちくさ〜三人管女〜」多々羅剛、「帰る場所を失くした鬼は靴を履かない」青木優、「歌え、パヴァロッティのように」貞安亜由美、「シークレットオブライフ」小林倫生、「マコ」藤原佳代子



四季大賞のトラベラーがとても素晴らしかったです。作者の今井哲也先生は現在アフタヌーンハックス!を連載中です。ハックス!が面白いのは言わずもがなですが、その面白さはこの四季大賞のトラベラーがです。


主人公のユウはひょんなことから4ヵ月後の未来に飛ばされます。そこでは、付き合っていた彼女と別れ、仲間とやっていたバンドを脱退していたという未来が。何故そうなったのか?を探しながら暗中模索していくわけですが、「どうにもならない」ところへ行き着きます。4ヶ月間の自分がやったことはその自分にしか分からない。4ヶ月前の自分にできることをやらなきゃいけない。そこへ行き着いたとき、別れてしまった未来での彼女のために、自ら作曲した「トラベラー」という歌を仲間と演奏します。そして、その後すぐに過去に戻ることができて―


彼女をギュッと抱きしめます。大変な思いを未来でしてきたけれど、それは彼女が本当に大切であることに気付かされた「旅」でした。楽しさ、喜び、悲しみ、苦しさ・・・人は様々な気持ちを抱き、それを伝えることによってまた新しい感情を作り上げます。それは現在の「ハックス!」にも受け継がれる今井先生らしさなんだと思います。その原点をこの「トラベラー」で見ることができます。






2006春


四季大賞:「メトロポリタンミュージアム」兼子義行
四季賞:「CURE」前邑恭之介
特別賞:「喰らう怪物」兵庫しんじ
準入選:「硝子の涙」大島未椰
準入選:「むこうのバス」たきむらりゅう
準入選:「フライト オブ カラーズ」新田章
準入選:「水中花」斉藤千柳


佳作:「フィッターハッピアー」悠、「こもれび」飛翔、「プラトニックラブ」江崎サトウ、「僕らが穴を掘る理由」マッハ!さだやす、「少女コネクト」イサカチカシ、「ジンコ」朱本彩亜子



ここでは四季賞の「CURE」を取り上げたいと思います。新人漫画賞にしては珍しく、2話掲載でした。全体の流れとしては、主人公の樋口くんがダンプに轢かれてからの入院生活を描いています。ダンプと自転車との事故であったこともあり、左大腿部の皮膚や筋肉がごそっと・・・な状況。1話目ではその状態から自分の足が少し・・・少しだけ復活するところまでのお話。楽しかった生活から一変し、サッカーが出来なくなるかもしれないくらいの大事故だったわけで。懸命にサポートする母親と喧嘩したりと、それはそれは暗い雰囲気の漂う内容でした。


それでも1話目ラストでは足が復活してきているという小さいながらも光明が見てとれるものであり、その流れは2話目にまで繋がっていきます。2話目では隣の病室にいる瀬脇さんを通して、生きることの大切さをまじまじと見せ付けてくれます。


瀬脇さんは片腕を失くした方で、新しい腕をくっつけてみる手術を目前にしていました。そんな瀬脇さんに投げかけた言葉「可能性があっていいですね」。1話目からの暗い気持ちの一部で出てきたわけですが、家族をかかえた瀬脇さんにとっては何の気休めにもならない言葉でした。大変なのは皆一緒。辛いのだって皆同じ。結局は手術も失敗するわけですが、そんな瀬脇さんは片腕だけでも生活できるように次の努力を始めます。一方の樋口くんは自分が言ってしまった言葉に絶望しながら、立ち上がることに成功します。それを見た瀬脇さんの笑顔が暗い内容を全て吹き飛ばします。


心が晴れる笑顔です。


ちなみにですが、四季大賞の「メトロポリタンミュージアム」も面白かったです。いつの間にか存在が消えていく少女を描いています。アフタヌーンに王道というものはない気がしますが、アフタヌーンらしい作品だったと思います。そういう意味では四季大賞に納得です。






2006夏


四季大賞:「虫と歌」市川春子
四季賞:「鵬の眠る城」金田沙織
四季賞:「呪縛」植木勝満
特別賞:「My name is・・・」芝孝次
準入選:「おりてくる月」ななほし天斗
準入選:「Free Style」小林絹江
準入選:「3分間4次元世界旅行」藤村隆之
準入選:「FRAPPER JAM」鈴本テツヤ


佳作:「Counselor」DRA、「ディスティニーマン」畑研、「老婆と魔女―シアの記憶より―」まどかりん、「タラオ先輩のK点越えマジック」内田俊夫、「Home♡Making―明日はずっと続いてる―」みや中みえ、「28歳、職業・勇者」日本インセクト、「葬儀屋河骨」石飛はるか、「ソアビ」田中一行、「あたたかい抱きしめ方」トリイセイジ



読み応えのある一冊でした。それこそ芝、植木両先生の作品は春でのメトロポリタン〜と同じく、アフタヌーンの系譜として読めるアフタらしい作品でした。メトロ、呪縛、My name isらは絵柄や話の内容が全然違うのに、どれをとっても「アフタらしい」と思えてくるのが不思議です。それもまたアフタヌーンの魅力なのかもしれませんが。また、中でも金田先生の鵬の眠る城は読み応えという点で言えば4作品中トップ。モブが圧倒的に素晴らしいというしかありません。これもある意味アフタらしい・・・って、何か「アフタらしい」という定義が難しいですね。ホント何でもありだな。とはいえ、この鵬の眠る城は連載にして読んでみたかった気がします。


四季賞、特別賞の3作品はどれも面白かったと言わざるを得ませんが、それでも「虫と歌」ですよ。アフタヌーンには是非とも市川春子という才能を大切にしてもらいたいです。何度かアフタヌーンでも読みきりをやってくれています。その度に、このポータブル夏を引っ張り出してますよ。


トーリーを説明するのが難しいのですが、新種?の虫を作る青年・コウの物語・・・なんだろうか。以前作ったヒトガタの昆虫(クマムシ)がお礼参りをしてきて・・・というお話です。3兄妹であるコウ・ウタ・ハナの内、基本的にはウタを中心として話が進んでいきます。ちなみにそのクマムシ君はハナによってシロウと名付けられました。


全体的にやわらかく切ない話の作りになっています。切なさの象徴がまさにウタです。淡々と、時々大胆に話が進んでいくわけですが、最大のオチが待っています。それは実はウタもハナもコウによって作られた昆虫だということ。シロウが寿命を迎え、ウタもまた消えていこうとした時の一言がとてもとても切ないんです。


「生まれてよかった」この一言に救われつつも、また大切な家族を亡くしたことに創造主であるコウが自己嫌悪するラストがまた素敵。ここに書いたのは大筋の一つであり、細かなところを含めばまだまだ言い足りません。10回読めば10回の発見がある作品です。実は伏線だらけなんですよ、この作品。よくあの短いページ数でここまで・・・と感心しきりです。本来であれば連載を持ってもらいたいところなんですが、結構短中篇向きな作風だと思うので、良質な読みきりを連発してもらいたいものです。できれば短編集とかも欲しいですよ、マジで。あとはグフタにでも・・・。






2006秋


四季大賞:「死神」臼井仁志
四季賞:「道のうえ」大岡智子
特別賞:「その心臓を動かすものは、」左右
準入選:「吉田家の血」中島守男
準入選:「スカーフェイス」端野洋子
準入選:「ゆめうつつ、ゆめ」釣巻和
準入選:「電柱奇談」梶原園子


佳作:「エンドレス・レッド」兎屋七、「A black hen leys a white egg」斉藤俊介、「妻の誕生日」竹ノ内仁、「夜に咲く花」早乙女炳乎、「残念賞リターンズ」原田憲一、「ことのゆくすえ」出島綾、「アジサイとオジサン」栗原真理子、「バニーガール」青木優



冬、春、夏に比べて若干見劣りはしました。・・・が、あくまで俺の基準なので好き好きはあると思います。例えば、四季大賞の死神や四季賞の道のうえが持つ作品としての力強さはさすがの一言。ただ単に俺の中で絵が・・というだけです。それだけ。逆にその心臓をうごかすものは、という作品については前述の二つの作品と逆です。絵は超好みですが・・・・というだけ。まぁ、茶色のおさげっ子に弱いんですよ。


あえてここで挙げるなら実は準入選以下の話かな・・・と。もちろんそれはこの秋の話だけではありません。アフタだけに止まらず他誌で名前が出ている方もチラホラしています。そのまま名前を見なくなった方もいますが・・・。名前を見なくなった方はそのままアシスタント等でご活躍されているか、名前を変えているのだと思っておくことにしておきます。


で、何故この秋で準以下を取り上げようかと思ったのかについてですが、準入選に中島守男先生と釣巻和先生の名前があったからなわけで。両者とも頑張っておられます。中島先生は現在本誌で「吉田家のちすじ」を連載中。釣巻先生はグフタにて水面座高校文化祭を連載しています。もしかすると2006で名前が挙がった方々がまたどういった形であれ掲載されることを楽しみにしています。


あえて2006秋は受賞作をそこまで取り上げませんでしたが、何度も言うように決してレベルは低くないです。多分、好みの問題です。あわせて審査員に対して文句をつけようとかそういうわけでもありません。というか2007秋は最高にレベル高いから!!池上先生GJですよ・・と。





1年だけで結構なボリュームになりました。また早い時期に2007年としてその2をやりたいと思います。突発的にやってみましたが、色々と気付くことができました。改めてアフタヌーン四季賞は面白いと思います。